THE UNARMED-22
何十人目かの敵を斬った後、俺の背後で戦っていたドグが俺に向かって声を上げた。
「ガルムゥ、俺、疲れちまったよ。こう土煙で辺りが見えないんじゃ、どうも」
「馬鹿、弱音を吐くな! 俺だって好きで戦っているわけじゃ……」
ドグに向かって叱咤する。
しかし、そこで俺ははっとした。
(……好きで戦っているわけじゃない)
俺はやはり以前の自分とは違う自分――己を守るために敵を斬っている自分を感じた。
宿屋のベッドでレイチェルと語り合った日のことを不意に思い出す。
そんな自分に疑問を感じた一瞬の迷いは、悲劇を生んだ。
「ッ!」
(しまった!)
手から剣が滑り、地面に落ちてしまった。
乾いた地面に、剣が乾いた音を立てる。
しかし敵は容赦などしない。得物を失った俺を襲って来る。
俺は覚悟し、腕で頭部を抱えた。
「?」
けれど、いつになっても衝撃はやって来ない。
薄っすら目を開ける。
「……ドグ……!?」
そこには俺を庇うドグの姿があった。
「へへ……言うの、遅れちまったけど……サバーカから聞いたぜ……」
「……お前、死んじまったら駄目だろ……? レイチェルさんが、悲しむじゃんか……」
俺を斬る筈だった敵の頭を剣でかち割り、俺に向けて笑うドグ。
その口の端からは赤い血が流れていた。
「俺が、代わりになってやるから……」
言ってぐらりとドグの身体が馬から落ちた。
奴の身体には、敵の得物が突き刺さっていた。
「ドグッ!!」
……嘘だろ?
嘘だと、言えよ。
親友であり悪友の血に塗れた剣を取り、俺は愕然とした。
「おい、起きろ! すぐに別の敵が――」
「馬鹿! そこで何している!」
サバーカの声に俺は振り向いた。
奴は悟ったような目で首を横に振る。
「馬に乗れ。東に人が足りないから、そちらへ向かうぞ」
俺は呆然としていた。
「でも、ドグが」
「乗るんだ、早く! 奴の死を無駄にするな!」
叱咤され、俺は素早く馬に飛び乗ると、走るサバーカの後を追う。
そこで俺はドグの死を認めなければならなかった。
――くそったれ、くそったれ!
何故、俺はあそこで剣を落としたんだ……!
自分の不甲斐なさを今更ながら悔やんだ。
「レイチェル騎士長!」
「サバーカか、どうだ味方の様子は!?」
レイチェルの言葉に、サバーカは俯いて答える。
「シアンは行方不明で、アーソが捜しています。すみません、止めたのですが……」
「そうか」
「そして、チカーと……ドグが」
レイチェルもまた顔を俯かせ、頷いた。
他にも幾人か死んだらしい。レイチェルはごく自然にそれを受け入れていた。
「……そうか。この辺りにもう敵はいない、東へ向かうぞ!」
レイチェルのマントが翻る。
その声と共に俺達も馬の向きを変えるが、俺はふと妙な気配を感じて振り返った。
「ッ! 馬を走らせろ!」
俺は声を上げる。
どこからか無数の矢が、まるで雨のように降って来た。
盾と剣で矢を払う仲間達を見ながら、俺もまた剣でそれらを払い除けた。
しかし、横のレイチェルの様子がおかしいのに気付き、俺はそちらを見やる。
どうやら奴の馬に矢が刺さったらしい。
あまり深くはなかったようで、レイチェルが浅く刺さった矢を抜くと、やがて馬も大人しくなる。
だが、安堵するのも束の間だった。