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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-21

10. 最後の逢瀬
夕方ともなれば、水溜りは殆どなくなっていた。
地面はぬかるんでいたが、俺は飛び跳ねる泥など気にせず走っていた。
「レイチェル……!」
息を切らせる俺を、細い腕が抱き締める。
此処ならば誰にも見つかる筈のないと言うような、街外れの森の中。
鴉が鳴く暗い森の中、俺もまたレイチェルの身体を抱き締めて金の髪を掻き揚げる。
「悪い、待ったか」
レイチェルはその言葉に首を横に振る。
「すまない、急に呼び出して。でも、おそらく……」
これが、最後になるかもしれないから。
言ってレイチェルは俺の胸に顔を埋めた。
その言葉は予想していたが、改めて実感する。
レイチェルの呟きに、俺は唇を噛み締めた。
今回のようなことがあった以上、これ以上逢瀬を重ねるのは止めるべきだと、レイチェルも俺も分かっていた。
もっとも三日後には弔い合戦が迫っている。
いずれにせよ、次に会うのは戦場だった。
「戦いの前に言っておきたかった。先程のこと……すまなかったな。感謝している」
そして顔を上げて、レイチェルは首を傾げて俺に問うた。
「……戦いが終わったら、お前はどうする? 私はもう、あのようなことを言われたくはない」
「駆け落ちでもするか」
冗談交じりに言った言葉に、レイチェルが笑った。
「本気にするぞ」
「お前に触れる度に、温かなものを感じるんだ。それをまだ、感じていたい」
俺達は、分かり合うのが遅過ぎた。
もっともっとこいつを感じていたいのに。
残酷な時間はそれを許さない。
「……私もだ」
レイチェルが目を伏せて、俺にしな垂れかかる。
細身の身体をしっかりと抱き締め、俺も言った。
「この温もりを、戦いの後でも感じたい」
言葉とは裏腹に、最後の抱擁になるとの覚悟で言った。
そうして、ゆっくりと触れ合う唇。
何度も何度もキスを繰り返し、お互いを確かめ合う。
唇の熱さが、どうしようもなく切なかった。



11. 終―すべての戦いの後で
血の臭い――此処が戦場だと嫌でも実感する、この臭い。
雨でぬかるんだ荒野に馬を駆る。
この戦いだけは絶対に負けられないと、悪条件ながらもガルシア国軍は必死だった。
ガルシア騎士団長と言う人物を失い、軍の士気は大分落ちている。これが奴の弔い合戦と言うことで何とかもっているようなものだ。
この戦いで負ければ敗戦も同然――必死になるのも当然だった。
馬を駆り、剣を振るい、血を流し、血を流させる。
後の歴史に『死闘』と刻まれたように、壮絶な戦闘だった。

――そしてこの戦いの始まりから幾日経ったか、既に分からない。
戦いの始まりにはぬかるんでいた大地もこの頃にはすっかり乾いていて、荒野には土煙が舞い上がっていた。
疲弊した兵達を奮い立たせるのは困難だったが、それでも戦わねばならない。
あと少しだと、根拠のない言葉でも信じるしかなかった。
そして、俺もまた戦いの終わりを信じて必死だった。
顔や腕に傷を受けながらも剣を振り、敵を斬って行く。


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