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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-20

「第三傭兵団団長サバーカ・リカードであります。僭越ながら申し上げます。万一この男――ガルム・ヴィクセルが抜けたとあれば、彼の言う通り……」
「ガルム・ヴィクセルだと!?」
今度はサバーカの言葉を老人が遮った。
驚愕したように、その声は僅かに震えていた。
「貴様が、『狂犬』か……!」
そうか、この男が騎士団に関係しているのなら俺の名を知っているのか。
傲岸不遜な俺の態度は、当時の騎士団では問題になっていた。
俺の残した数々の功績は上を黙認させるに十分であったが、例の事件で俺は結局騎士団を去ることになる。
奴等は安堵したことだろうが、未だその逸話は残っているのだろう。
「く……こ、今回のことは見逃そう。だが、次にまた噂などあればその時こそ査問にかけねばならぬぞ、ギルガ騎士長」
老人は言い、踵を返して去って行った。
その背を見据えつつ、レイチェルがぼそりと呟く。
「……すまない」
小さな声に思わず聞き返した俺に、レイチェルは言った。
「お前の名を借りて問題を収めるとは情けないな、私は」
そして疲れたように笑う。
そんなレイチェルに俺が声をかけようとすると、それを諌めてサバーカが言った。
「ガルム、ちょっと顔貸せ」
疑問符を浮かべる俺に、サバーカは有無を言わさぬ態度でレイチェルに断りを入れる。
「騎士長、今日はこれにて失礼します」
奴の言葉にレイチェルは頷き、ドグと共に未だ疑問符を浮かべていた俺は、一礼して去るサバーカの後を追いかけた。


いつの間にか雨は止んでいた。
水溜りに浮かぶ泡沫が弾け、小さな波紋をつくって行く。
ガルシア城を出て城下町を歩きながら、俺は俯いたままサバーカに言った。
「……悪かった。感情が高ぶっていたせいだ」
「全くひやひやさせられるよ、お前にゃ」
ドグが笑いながら俺の背を叩く。
しかしサバーカはきっとドグを睨み、些か厳しい口調で言った。
「どれだけ問題を起こしたら気が済むんだ、もうお前のフォローは御免だぞ」
「分かっている」
俺は頷いた。
そこでようやっとサバーカも口元を緩める。
「分かっているならいい。今回のことは……大分私情を挟んだ問題だったしな」
「サバーカ」
「何も言うな、俺は分かっている」
言って足を止めると、サバーカは俺の肩を軽く叩いた。
全く、こいつと言う奴は……。
こいつといると仲間のありがたみがしみじみと伝わって来る。
「お前には、感謝してるよ」
素直に礼を述べた俺に、サバーカは笑った。
「何を言ってるんだ。お前達が幸せになればこそ、さ」
言ってサバーカが手を差し出した。
嬉しいこと、言ってくれやがって。
俺はその手を握り返す。するとその手に小さな紙切れを握らされた。
「先のことを考えると色々辛いかもしれんが、まあ三日後の戦いに勝つことだけを今は考えろ」
その紙切れを見てからサバーカの顔を見やると、奴は軽くウインクしてみせた。
頷き、俺はある場所へ向かうべく体を転換させる。
「? 先のことって?」
「まあ、お前は気にするな」
何が何だか分からないと言ったふうなドグの声とそれを軽くあしらうサバーカの声が、背中に聞こえた。


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