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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-19

幸せと言うものは、所詮長くは続かない。
今までの経験で、それは分かっていたつもりだった。
しかし、今回のこの幸せがこんなにも短いとは、まさか夢にも思わなかった。
雨降り頻る中庭の見える、ガルシア城の回廊。
レイチェルがひとりの老人を前に、顔を歪めて言った。
「――今、何と仰ったのです?」
俺とサバーカ、そしてドグはその後ろで互いに顔を見合わせる。
「だから、貴公が毎朝とある宿から出て来るのを見たとの声があると言ったのだ」
老人――おそらく国の上層部にいるお堅い連中のひとりだろう。
訓練中に呼び寄せられたレイチェルの護衛として付いて来た俺達をじろりと見やり、鼻を鳴らす。
くそったれ、いけ好かねえ爺だ。
「それは一体どう言う意味です?」
眉を顰めるレイチェルに、老人は肩を竦めた。
「言ったままの意味――貴公がアインヴァント公を裏切った、と」
「何を、仰る」
冷静さを保っていたレイチェルの声が、明らかに苛立ちの色を含んでいた。
しかしそこに同様の色が見られないのは、流石というところか。
「根拠はあるのですか」
「さあ……詳しいことは貴公を見たと言う人物に訊かねばな」
老人は続けて言う。
「しかし、このようなことがあるとは全く情けない。夜な夜な誰かも分からぬ男の元へ会いに行くなど……」
「騎士長とは言えど、所詮は女じゃな。全く士気が乱れる。この件については貴公を査問にかけねばならぬぞ」
「ちょっと待て、爺さん」
思わず俺は口を開いていた。
その言葉に振り返ったレイチェルの表情は、明らかに傷付いていた。
俺は口元を歪める。
「聞いてりゃ随分勝手じゃねえか。何だってそうあることないこと問い詰める。当て推量で言って良いこと悪いことがあるのが分からねえのか」
「おい、ガルム……」
傍らのサバーカとドグはぎょっとして俺を見ていた。
レイチェルも何か言いたげに俺を見る。

だって、そうだろ?
こんなことを一方的に言われたら頭に来るじゃねえか。
確かにレイチェルは男――俺と会っている。
だが、それは毎夜と言うわけでもないし、爺等が考えるような疾しいものではない。
「確かに騎士長は女だ。だがそれが戦場で何になる。女を盾にしているわけでない……ましてや騎士長は肩に傷を負ってまで出陣しようとしたんだぜ」
事実を知れば、この女を抱いた俺が何を言うか、と人は言うだろう。
しかし、俺はレイチェルを貶めるような言い方をするこの爺が心底気に食わなかった。
「情に厚い騎士長が、単なる慰めを求めて男の元へ行くと思うのか」
そもそも俺があいつを求めるのと同様に、あいつが俺を求めたのは、単に慰めを求めたわけではなかった。
レイチェルが単なる慰めを得られればいいと言うだけなら、俺はこの女を蔑んだだろう。
俺達が身体を重ねるのは、決して快楽を得るためじゃない。
俺がこいつに抱く感情が、こいつが俺に抱く感情がそうさせる。
ただ、それだけだ。
「き、貴様……傭兵風情が何を言う!」
老人はかっとなって俺に詰め寄る。
「口ごたえなどしおって、わしを誰だと思っている! その気になれば貴様なぞ……」
「首にすればいいさ。何なら殺したって構わねえんだぜ」
「!?」
俺の言葉に皆がぎょっとした。
驚く奴等の顔を見ながら、俺は言う。
「だが、俺が抜けて困るのはそちらさんじゃねえのか。俺が抜けたらとしたら、まず第三傭兵団の士気は一気に落ちるだろうな。お偉い方は分かってるだろ、先の戦いでの俺達の功績は」
「下手すりゃ他の傭兵団にも下がった士気が波及する」
老人は冷汗を流しながらも反論する。
「ふ、ふん。貴様ひとりが抜けたところでそこまで士気が落ちるとも思えんな。大体……」
「失礼します」
老人の言葉を遮り、サバーカが前に出た。


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