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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-16

「私に近寄るな、触れないでくれ……! でないと、自分が分からなくなる――」
俺は困惑し、暫しレイチェルを見下ろしていたが、その場に屈んで奴の顔を覗き込む。
そしてその涙に塗れた顔を見た。
「!」
俺の視線に気が付いたレイチェルは、俺の身体を突き飛ばすと同時に声を上げた。
「お前を……お前を死ぬ程憎んでいる筈なのに、どうしてなんだ!?」
俺は突き飛ばされ、唖然としたまま奴の言葉を聞いた。
「どうしてなんだ!? 触れられると、胸が熱くなるのは!」
「……レイチェル」
「自分が分からなくなる。お前の側にいると――」

――心が掻き乱される。

それを最後に、奴の言葉は嗚咽に変わった。
俺は困惑と同時にある衝動に駆られる。

「俺は」
素直に出た言葉だった。
「お前に触れたい」
そして言葉と同時にその細い身体を抱き締める。
悪戯な風が弄んだ金の髪が、俺の痛む頬を撫ぜた。
――奴が欲しいと言うその衝動。
好きだとか惚れているとか、愛しているなんて言葉で表せるような感情とは違う。
「お前が欲しい」
心が欲しいわけじゃない。ましてや身体が欲しいわけではなかった。
俺の胸の中で咽ぶこの女がただ欲しかった。
「……のに……」
レイチェルが小さく言った。
「……お前が憎いのに」
俺は耳元で奴の吐息と共にその声を聞いた。
「お前が憎いのに、どうしてなんだ。どうしてこうも胸が熱くなる……?」
俺は金の髪を優しく撫でた。
そして言う。
「その理由(わけ)を知って、どうするってんだ」
「……お前は知っているのか?」
「――知っている」
言い、俺は奴の問いの答えを示した。
そして少なからず驚く。
――この女は、自分で投げた問いの答えを知っていたのだろうか。
それとも、これは本能か。
俺の唇が奴の唇に触れたその瞬間、甘い吐息が柔らかな唇から漏れた。
ついばむように幾度も俺はその唇に触れる。
そしてその度に奴の唇は俺に応じた。
名残惜しそうに俺は唇を離し、金の流れの中に顔を埋めた。
「お前の全てが……欲しい」
言葉は柔らかな風の中に溶けた。


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