旅の夜-6
≪たった一夜限りの関係だが≫
「邦夫、起きろよ!」
気がつくと、みんなは着替えを済ませ、旅行バッグの整理をしていました。
「もう飯を食う時間もないから、早くしろよ」
「えっ、もう、そんな時間かよ」
私が時計を見ると、確かに出発まで後10分しかありませんでした。
「蹴飛ばしたって起きねえんだから、お前、よっぽど疲れていたんだな」
友だちは呆れていました。
大急ぎで着替えを済ませ、何とか時間に遅れずにバスに駆け込みましたが、彼女の姿はありませんでした。
「お一人様、急用ができて帰られましたので、これで全員お揃いです」
添乗員がそう言ってバスは出発しました。
「早苗さん」
それしか私は知りません。でも、それでいいのです。
明け方まで体を求め合ったのは事実ですから。
(了)