旅の夜-2
「一緒にいいかしら?」
驚いて振り向くと。湯気の中に見えてきたのは同じツアーに参加していた40歳くらいの女性、顔立ちは今で言えば女優の大塚寧々さんにちょっぴり似ているかな。
えっ、今の時間は男性専用だった筈だけど…私は入口の案内板を思い浮かべていましたが、彼女は素っ裸のまま、前も隠さずに近づいてきました。
「驚いた?」
「は、はい」
大きなおっぱい、股間には黒い陰毛…彼女は湯船の淵に片膝をつき、手桶で体に湯を掛けていましたが、当時の私は純情そのもの、恥ずかしくて背を向けてしまいました。
「早苗(さなえ)よ」
「く、邦夫(くにお)です」
背中越しに声を掛けてくれましたが、早くどこかに行ってくれと思うばかりで、私は振り向く勇気などありませんでした。
ところが、驚くことに彼女は「ああ、気持ちいい」と私の横に入ってきたのです。
「あ、あの、僕、出ますから」と逃げ出そうとしましたが、「まだいいじゃない」と彼女に腕を掴まれてしまいました。そして、「誰もいないから、ちょっと付き合ってよ」と言われました。私は何と答えていいのか分からず、「は、で、でも…」と口ごもりました。すると、彼女は「嫌なの?」と横目で私の方を覗き込んできました。恥ずかしさと、誰かに入ってきたらどうしようかと思う気持ちで、「そ、そうじゃないけど…」と返すのが精一杯でした。
夜風は涼しく、空には満天の星ですが、そんなことを楽しむ余裕はありません。それどころか、「なら、いいじゃない」と、彼女は体を寄せてきたのです。肌と肌が触れ合い、私はドキドキして、早くここから逃げ出したい、そればっかり考えていました。