紅香語り(6)-4
それは、東島財団のあの研究室の中央にでんと置かれている、金属がうにょうにょしている装置で、さまざまな太さの金属のパイプが、中央の半球形のドームのような形のその装置から各方向に出ており、床や天井を這って四方の壁に伸びています。まるでSFアニメに出てくるメカのようです。
機能の説明を受けたとき、お姉ちゃんは目を輝かせて、開発者だという片桐さんに何やらお世辞を言っていました。さぞお金がかかっているだろうことはわたしにもわかりますし、お姉ちゃんが、
「これ、技術的にも凄いものよ‥‥!」
と、息を飲んで言うとおりなのでしょうが、そういう方面にうといわたしは、まるで怪物のおなかのなかにいるような気持ちになっただけなのです。
(おなかのなか‥‥って、変かな。前に立っていただけだから、口のなか、が普通なんだろうけど――。でも、実際わたし、そう感じたし‥‥)
とにかく、そんな責め下着どころではない怪しい機械が、あの研究室に用意されているのです。そしてわたしのお姉ちゃんは、それに目を輝かせているのです‥‥。
お姉ちゃんともあろう人が、ただ目を輝かせているだけ、とはわたしには思えません。きっと使うつもりなのです。
(――誰に対して‥‥?)
わたしはすでに、調教の期間を終えています。わたしにさらに使うつもりなのでしょうか。
(それとも、もも‥‥――)
わたしが抱えるいやな予感も、
――ブツッ。
「きゃああっ!」
「え? え? え、え――なに? 電力オーバー?」
あの日の上映会ですが、唐突に終わりを告げました。突然、リビングが――家中が、真っ暗になったのです。
「怖いっ、怖いよお姉ちゃんっ」
「落ち着いてっ‥‥」
最初、玄関のほうへ立っていった白香お姉ちゃんが、カーテンとガラス戸を開けてベランダに出て、言いました。
「――あー、やられた。停電だわ、これ‥‥。他の家の
そのとおり、わたしたちが住む地域一帯を、不意に停電が襲ったのでした。
幸い、すぐに復旧して、家のなかはぱっと明るくなり、モニタも、DVD――ブルーレイ、でしょうか――等の機器にも異常はありませんでした。
モニタで、テレビを観ることになりました。ひととおり停電のニュースを観た後ではもう、上映会を再開する気には桃香でさえなりませんでした。わたしはといえば、お姉ちゃんの頼もしさと騒ぎたてる桃香の元気さを、このときばかりはありがたく感じながらも、中断したことにほっとしてもいました。映像の内容ももちろんありましたが、わたしは根本的に、機械というものが苦手なのです。
さて、いまに戻って‥‥。
(あの機械のことは、あんまり考えないようにしよう‥‥)
わたしはそう思い、そして決意しました。
(とにかく、今日は海田くんと会って、楽しもう――)
と。
(海田くんが、こんなわたし――わたしたちを、何とかしてくれるかも‥‥)
なんていうふうにも思いながら‥‥。