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まきちゃん
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まきちゃん-2

「絵理がね、私とはもう話したくないって」なんにもしてないのに、ひどいよ、だってあたし。まきちゃんは堰を切ったようにまくしたてた。ぼろぼろと大粒の涙を流し、時々しゃくりあげながら、それでも話すことは止めない。
彼女は、こんな時でも清々しい位に健康的だ。私は微笑んで、ただ相槌を打っていればよかった。彼女は私の助けなど必要としていないのだ。ブルーのプリーツスカートが、揃って排気ガスになびいた。肉付きの良い四本の太股が、秋の太陽を甘受する。


私は、今思えば献身的と言って良いほどに彼女に付いてまわっていた。当時大して好意を抱いたことも、ましてお約束の親友の契りなんてものも交さなかったはずなのに。女同士の友情って不思議だ。

女友達。
かつてはたくさん回りに転がっていて、今は影さえひそめてしまったものたち。皆どうしているだろう。
まきちゃんは予想通り、すっかり元気を取り戻してもと通りの生活を送っていた。ただ、絵理はいつものグループの中にはいなかった。絵理は、教室の右端で千砂子と雅美のグループと楽しそうにはしゃいでいた。くっついては離れ、組換え、混ざり、分裂する。女同士の集まりは、アメーバのそれよりもずっと複雑で、ずっと生命力がある、何かそれだけで生き物のようで生々しい。

私は、と言えば、言わば分裂の時にそのシステムを遺伝子に組み込み損ねた出来損ないの娘細胞だった。どこの集団にも、時々顔を出しては去っていき、どこにでも自由に潜り込む。問題なのは、それ自身がフェイクであるが故にどこにも溶け込まないことだ。そして、それがいつか誰かの癪にさわることもわかっていた。だからこそ、注意深く注意深くしていたのだ。浮かないように、沈まないように、いつも誰かと楽しそうにしていた。実際、そのほとんどはとても楽しかった。


だから、これはただ単に、私の注意が足らなかったのだろう。




始まりは、以外なことにまきちゃんだった。
「悪いけど、もううちらのグループに来ないでくれる?」
あんたが来ると調子狂うのよ。そう言って、彼女は私を置いて立ち去って行った。朝のいつもの登校途中、コンビニで買った烏龍茶を提げたまま、突然の出来事にぽつねんと立ち尽くした。肩を怒らせて猛然と歩いていくまきちゃんの背中。ついてくるな、と言わんばかりだ。
「心配しなくても、追い掛けたりしないのにな」
一人で所在ない空気の中で、思わずそう呟いた。彼女はきっとこれから私を見かけるう度に、私の前で友達とこれみよがしに笑うんだろう。小学生みたい。そう思ったら怒る気も失せてしまった。ばかみたい。私もまきちゃんも。

最近は毎朝、まきちゃんと美加と私で通学するのが週間になっていた。昨日見たテレビ番組の話、恋愛観、たわいもない噂ばなし。時には彼女らと他の数人でできたグループにも顔を出しに行ったし、最近は日増しにその回数が増えていた。居心地がよかった。だから長居をしてしまっただけだ。
入れもしないくせに、グループの一員のふりをしすぎた。
大丈夫、ちょっとしくじっただけだ。
「よっし、行くか」
腕をふりまわし、ひときわ大きな独り言を叫ぶ。堆積した空気を、震わせてかきまぜてほぐす。めいっぱい身軽にしておかなくちゃならない。だって、私はひとりだから。

アスファルトのつめたく白い校舎がひいやりとして、よく効いた冷房でますます冷えていた。まだ、朝早い。自分の靴音が小さく反響するのがうっとおしかった。
教室のドアがいやに大きく感じられる。まきちゃんが別のクラスでよかった。

くすんだ緑色のそれを、思いきりスライドさせた。

「おっはよう!」
ガシャンという金属音にまじって、友達の快活な返事がきこえた。


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