投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

まきちゃん
【その他 その他小説】

まきちゃんの最初へ まきちゃん 0 まきちゃん 2 まきちゃんの最後へ

まきちゃん-1

まきちゃんの事を話そうと思う。かつて友達だった、そしてもう二度と会うこともない、あるひとりの、今は17歳じゃなくなってしまった女のひと。


彼女に出会ったのは高校生のあるとき。何ということのない、友達のともだちという些細な出会いだった。一年目に知り合ったか、あるいは二年生からか。よろしくね、の言葉を交したかさえ、覚えていない。共通の友達がいたためか、いつの間にか知り合いだった。そんな感じだ。


彼女は私と考え方がまるきり違って、まっすぐに不器用で、人を意図的に傷つけ「られる」ことに少しばかり誇りをもつ―――他意も悪意もなくステイタス的に――――年相応に感受性豊かで、そして鋭利な少女だった。文句を言いながら眉をひそめるとき、前屈みになるから耳にかけていた髪がぱさりと落ちる。
「あの男、私の為なら夢をあきらめられる、って言ったのよ。私、そういう男って大嫌い」
彼氏と別れてしばらく後まで、彼女はよくそう言っていた。融通の利かない頑さが少しばかばかしくて、それがこの人の愛すべき所のように思えた。
「本当に夢なのなら、私のために捨てたりなんか出来ないはずよ。私を捨てるならともかく」
口を尖らせて、まっすぐに正面を見据えて言う彼女は、なんだかひどく傷つけられた顔をしていた。男と駄目になったことよりもむしろ、男が自分のために夢を犠牲にしたことに対して。
そうして、彼女に出会って実感したのだが、そういう理想主義な性格であるほど涙脆く危ういものなのだった。



「由希子、ちょっと聞いてくれない?」
沈んだ面持ちで彼女が教室に訪ねて来たのは、昼休み遅くだった。「どうしたの?」
尋ねた直後、教室の隅でわぁっと歓声がおこる。我が理系選抜クラスの名物、食後の麻雀大会だ。きっと誰かがボロボロに惨敗し、ペナルティの『お菓子ぶっ込みウーロン茶』の餌食になったのだろう。そして、彼女はそんなエネルギーに圧倒されたのか、ますますうなだれてしまう。
「帰りに聞くよ。もう休み時間が終わっちゃうし、ね。」
前とサイドの髪の毛ですっぽり隠れた表情を覗き込むと、まきちゃんはそれを隠すように手のひらで顔を覆って小さく頷いた。


彼女の心と対照的に、秋の空は叩いたらスコーンと音がしそうなほどに快晴で、大きめの通りにひらけた頭上一面の青いキャンパスは清々しくさえあった。透き通った秋空に浮かぶあののっぺりとした薄い雲に、彼女の悩みは吸いとれないだろうか。
「私、いやな奴?」
うつ向いたまま、まきちゃんは唐突に尋ねる。交差点で立ち止まる彼女の髪が、通り過ぎるスーパーカーに乱暴に巻き上げられた。
「どうしたの?急に」
まきちゃんの問掛けはいつだって唐突でとりとめがない。
「私、そんなつもりじゃなかったのに」
まきちゃんの心は秋空の雲よりも高く掴みどころがない。一人で、どこか遠くへ飛ばされたみたいに。思うさま千切れては飛んでいく心の断片を、私は必死に掻き集めなければならなかった。
「いやじゃないよ、ちっとも」
少なくとも、とか私には、などという曖昧な言葉はあえて避けた。こういう時は泣きたいくらい綺麗な嘘が一番いいと思うからだ。『少なくとも』まきちゃんにとっては。


まきちゃんの最初へ まきちゃん 0 まきちゃん 2 まきちゃんの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前