翔べない鷹は愛しきかな――僕はあの日常を絶対忘れない。――-2
「うぉっ!やべっ!授業始まるっ!!」
ホントだ、と思った時はもうすでに遅し。チャイムが鳴り響く。
「加奈が食べるの遅いからだよ。」
「ひどいくない?翔のバカー!」
「つうか、早く行くぞ!」
タカの合図で僕達は急いで教室に向かった。
「ほら早く帰るよー、タカちゃん、翔。」
放課後、いつもの道をいつものメンバーで帰るのも、もう当たり前な光景だ。
「おうっ!早く帰ってドラマ見んベ。」
「そういえば僕、最近テレビ見てないや。今って何やってんの?」
「えーっ!翔、遅れてるよー。今は『名探偵ドイル』が流行ってるんだよ。」
「あっ、アレ俺も好き。」
「何それ、アニメ?」
「ちがーう!ド・ラ・マ!なんかいきなり白ずくめの人に変な薬を飲まされて小学生が高校生になっちゃうの。でも見た目は大人、頭脳は子供だから事件が解けなくておもしろいんだー。」
「そうそう、『真実はいつもいっぱい!』ってな。」
「あっ、ドイルのキメぜりふだよね。…翔、ホントに知らないのー?」
「知らない。そんなふざけたドラマ。」
「自分だけ話に入れないからすねてんだろ、翔。」
「や、それは絶対ないから。」
「ふふっ、翔ってば意地っ張りー。」
……今更気付いたけど、この2人ってかなり人とズレてるよな。
「あっ、じゃあね、翔。」
「また明日なっ。」
「…うん。ばいばい。」
この道から加奈とタカは2人きりになるわけだけど、何を話してるんだろう。いつもは僕が2人の暴走を止めてるからなぁ。…ホント、今更だけどね。
そういえばいつかタカが言ってたなぁ。
「翔っ!俺っ、学校のセンコーになるわっ!」
「……………。」
「…あっ?何その無言。」
「や、思考が止まった。一応聞くけどタカが先生に?」
「なるっ!」
「…一応聞くけど授業中寝てて、テスト赤点で、喧嘩上等で誰よりも生意気なタカがなんでまた…?」
「おいっ。てかぁ、俺基本、子供好きだし?」
「見かけのわりにね。」
「センコーなら帰りもそんな遅くならないじゃん?」
「そう…かもね。」
「加奈も不安がらないじゃん?」
「…………。」
「加奈の子供にも勉強教えられるじゃん?んで、良いことずくめだから。」
「…単純?」
「…るっせ!」
タカの言いたい事はタカの真っ赤な顔見てなんとなく分かった。
タカにとって加奈はとても大切な存在なんだね。加奈がいなくてはダメになってしまうくらい。
「…早く加奈の子供が見てみたいぜ。」
小さな声だったけど確かに聞こえたその言葉は、僕に妙な敗北感を感じさせた。
僕も加奈とタカの子供が早く見たいよ。
ねぇ、加奈。加奈はどうかな?もしタカがいなくなったらどうする?
いつの間にか家に着いていた。
最近考え事が多いな。てか、考えなくちゃなんだけど。もうすぐ卒業だし。
進路どうしようかな…。
「翔っっ!」
ドアを開けようとしたら母さんがいきなり乱暴に開けてきた。
びっくりするじゃないか。
「どうしたの?」
「あっ…翔!たっ、大変なのよ!」
「ちょっと、落ち着いてよ。」
「あ…だって、だって…さっきタッ、タカちゃんとこのね、お、お母さんから電話があって…タッ、タッ、タカちゃんが車でひっ、ひかれたって…!」
「…………。」
何を…言っているんだ?
あぁ、タカが車にひかれたのか。バカだなぁ、あいつ。周り見ないで歩いてるからだよ。
全治どれくらいなんだろ?お見舞い行ってやんなきゃね。ノートもとんなきゃだし。
それにしても母さん、泣きすぎだよ…。