〜吟遊詩(第四部†砂漠の国ディザルト†)〜-6
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「随分、歩いたなぁ」
ユノはそう言いながら自分が歩いて来た砂地を振り返った。
さっきから風がざわめいている。空模様も好調ではない。
「まずいな……雨が降ったらウチの足跡が消える…只でさえ風で薄れてるのに」
ユノはエアルが追い付けるようになるべくゆっくりと歩いた。町からかなり外れ、もう今は使われていないような民家がポツリ、ポツリと忘れた頃に現れるくらいになっていた。
夕日が沈みかけている。
(今日はこの辺が限界か……あのホテルに泊めて貰おう)
丁度よく建っていた小さなホテルにユノは足を向けた。
エアルと離れてから2時間弱。距離にして10〜11キロ。
ディザルトでは太陽の出ている間は気温が50度以上にもなるが、夜になると氷点下近くまで冷え込むのである。夜に旅路を急ぐことは自殺行為に等しい。
「ごめんください━━…」
ユノがホテルに入った直後、外では激しい雨音が鳴りだした。
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『じゃぁ君はそのユノとか言う女の事、分かってるの?』
(俺がユノを信じたのは…)
ユノのあの赤い目がエアルの胸に浮かんだ。
全てを見透かしてしまいそうなユノの目に賭けたかったから。
(………でも俺はユノの身辺、背景は何も知らない…)
「今まで怪しい所はあった……??」
エアルはユノとの出会いから思い出してみた。
「ないよな?吟遊詩第二部を読み返せば分かる、怪しい所はなかった。うん!」
(まだ会ってから一週間と経っていないが、俺らの絆は他人に何か言われて揺らぐようなもんじゃない、と信じたい…)
小さな人間と別れ、歩き始めてから約1時間。エアルがユノの後を追う頃にはユノの足跡は綺麗に風に洗われていたあとだった。
(まだ追い付かないのかな……ユノ、ちゃんと屋根が有るところに泊まってりゃぁいいんだけど)
そうは思っても、今はあまりユノに会いたくなかった…。
ワザとゆっくりと歩く。
町を出てから砂丘を一つ越てしまったので、町の姿は確認することはもう出来ず、エアルの不安は増すばかりだった。
周りには民家らしい民家は一つも無かった。
仕方がなく、エアルは近くに見えた崩れかけの小屋に潜り込んだ。地面は砂が剥き出しで、所々壁が朽ちて落ちかかってはいるが雨は防げそうだった。
エアルは砂を掘り出した。そしてその中に潜る。寒い夜を乗り切るには、こうするしか術(すべ)はないのだ。
穴だらけの天井から小さな空が見えた。
「やべー…雨降りそうじゃん。寒〜…」
エアルは静かに目を瞑った。