〜吟遊詩(第四部†砂漠の国ディザルト†)〜-13
「はいっ!手当て終わり!!痛い??」
「…なんか感覚ねぇや。痺れる感じ?」
エアルが左手をグーパーしながら答えた。
「薬のせいだよ。そんなことよりエアル、通行書貰えたよ!!」
「本当か!?」
「うん。今 手続きしてるけど宮殿に戻る頃には出来てるって!ねっ?」
ユノはそう言って自分の前に座っている操縦席の男に話しかけた。
「えぇ。1、2時間で着くと思われますから」
そう答えた操縦席の男は、ユノが昨晩ホテルで会った髭男だった。すっかり通行書に切り替えられたエアルの頭の中には、ユノに対しての違和感はもはや無かった。
飛行船の中にはもう一人男がいた。助手席に座る、金髪の若い男。無表情で窓の外を見ている。どう見ても髭男より若いが、ずっと偉そうである。
エアルは別段2人の男を気にすることもなかった。
「ユノ、俺がいなくて怖かった??」
からかうようにニヤニヤしながらエアルが話しかけた。
「…エアルがいなくて怖かったってより、エアルが死んだらどうしようって怖かった…。」
真剣な眼差しをエアルに向けるユノ。
「……っ。そんなマジに答えなくてもいいって」
エアルは顔を背けた。赤くなった耳が髪の間から見えている。
「本気だもん!私、今エアルが死んだら困る…」
「はっ??」
急に怒ったように顔色変え、エアルはユノを振り返った。
『エアルが死んだら困る』
それはエアルが一番嫌いな言葉だった。
エアルを利用したがる人が口にした言葉…(第二部参照)。
「何が困るんだよ!」
(俺の命は俺の物だっっ!)
今にも掴みかかってしまいそうな気持ちを抑え、荒々しくユノに怒鳴った。
「だってエアルを生きたまま宮殿に連れ帰らないと私が殺されちゃうんだもん」
「はっ??」
「えへっ。ごめんね??」
ユノは目を丸くしたエアルに向かってニッコリと微笑みながらそう言った。
途端、エアルの喉に冷たい刃の感触があたった。
横に座っていた筈のユノは、気付かない間にエアルの後ろに立ち、剣を首にまわしていたのだ。
「はっ?冗談キツイって」
「冗談じゃないよ。貴方を殺らなきゃ私が殺られるんだって。命賭けだよ?」
エアルの首から赤い液体が一筋流れた。
「お前アホかっ!」
エアルが反撃しようともがく。しかし、
(体が動かねぇ!?)
「さっきの薬、痺れ薬なの。本当にごめんね?」
エアルの耳に優しく吹きかかるユノの囁き。顔が見えなくてもユノが先程以上の笑顔になっていることは声の調子で分かった。
見開かれたエアルの瞳に、微かに笑う金髪の男の横顔が映った。
(俺、裏切られ……た?)
窓の外で空が泣き始めた。
そしてエアルを乗せたジェット飛行船は暗い空に吸い込まれていく。まるで行く末を暗示するかのように……
〜吟遊詩(第四部†砂漠の国ディザルト†)〜【完】
第五部に続く。