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梨花
【その他 官能小説】

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梨花-44

 「胸に合わせるとウェストがだぶだぶになっちゃうし、ウェストに合わせると胸が入らないんです。それで私の服はどうしてもストレッチのものばかりって感じになっちゃうんです」
 「それで余計セクシーに見えちゃうって訳ね」
 「ええ。オサムがそれを好むし」
 「オサム君てやっぱり新人類なのかな。うちのとか中野の兄さんとはだいぶ違うわね」
 「そうですか? 私やっぱり兄弟なんだなぁって思いましたけど。すぐ照れて下向いて恥ずかしそうにするところなんて中野のお兄さんそっくり。荻窪のお兄さんなんか顔からしてそっくりだし」
 「1番似てるのは声なのよ。電話だと全然分からないくらい似てるわよ」
 「本当に。電話だと女房の私が間違えちゃうくらい似ているわ」
 「そう言えばそうですね」
 「ね、私お弁当作って来たんだけど食べない?」
 「いいな、そうしよう。私も作ろうと思ったんだけど昨日内職の方が忙しくって」
 「何か内職なさってるんですか?」
 「内職じゃなくて趣味なのよ。美智子さん編み物が上手でなんでも作っちゃうの。バザーなんか出すと真っ先に飛ぶように売れちゃうのよね」
 「それ程でもないわ」
 「私なんかも随分作ってもらったのよ」
 「いいですね。編み物とか書道とか皆さん特技があって」
 「あら、私なんかなんにも無いわよ。コーラスとかヨガとかいろいろやったけどいつもすぐ飽きちゃって駄目なの。うちの人は『3日坊主ってのはあるけどお前は1日坊主だから話しにならん』って馬鹿にしてねえ」
 「ハハハ、そうですか。私もオサムには馬鹿にされっぱなしだけど」
 「坂本3兄弟はみんな口が悪いのよ。だけどオサム君のは馬鹿にしてるっていうより可愛くてからかってるんだもの、いいわよ。うちのなんかもう、悔しくて歯ぎしりするようなこと平気で言って後のフォローが無いのよ」
 「そうね、うちのもそうよ。使う言葉は中野の兄さんよりマシだけど、理詰めでぐいぐい来るからもうどうしようもないの。話するの厭になって、死ぬまで喋ってやらないって思ったりするわ」
 「美子さんとこはいいでしょ?」
 「うん。うちは私の方が歯ぎしりさせてやるの」
 「いいですね。美子さんそんなことするんですか?」
 「するわよ。あの人グズでもっさりしてるからポンポン言ってやんないと駄目なの」
 「やっぱり口が悪いのは坂本家の血なんだわ」
 「ほんと。えらい所嫁入りしちゃったわね、美智子さん」
 「ええ。でも亜希子さんがやっぱり長男の所だから1番大変だったでしょ? お母さんと同居してたんですものね」
 「うん。でもお母さんはさっぱりしていい人だったわ。姑って凄いもんだからって覚悟してたら拍子抜けしちゃったくらい」
 「あら、さっぱりしているけどやっぱり口は相当悪かったわよ。私、亜希子さんが良く我慢できるなっていつも感心してた」
 「うん。私ほら、だいぶ鈍いでしょ。だから少々のことじゃ感じないのよ」
 「厭だ、亜希子さんって私と同じ。私も鈍くてよく馬鹿にされるんです。お前は馬鹿にしても感じないから拍子抜けだ、なんてオサムに良く言われます」
 「女は鈍いくらいの方がいいのよ。私なんか感が強いってうちの人がけなすのよ。もっとおおらかな人間になれって。この年になってどうやって性格なんか変えろって言うのよね」
 「美智子さんはデリケートで繊細だから。でも真彦さんはそれが良くて結婚したんじゃないの?」
 「そうそう。真彦さんは『美智子との結婚認めないなら俺はもう2度とこの家の敷居をまたがない』って言ってお母さんに迫ったのよ。だから今になってそんなこと言うのは卑怯だわ」
 「まあ、あの当時は私も梨花さん程じゃないけど、美人だ美人だって周囲に騒がれててね。あんまり若い女性のいない職場だったから目立ったし。それが今じゃ只のやつれたおばさんなんだから何言われてもしょうがないとは思うけど」
 「あんなこと言って。やつれたおばさんは自分からそんなこと言わないのよ」
 「そうですよ。今だって私よりずっと美人ですよ」


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