梨花-10
「それにしてもそのスカートは気にくわないな。俺と会うことが分かっていてそういう服装をするなよ」
「ハイハイ分かっていますよ、お父さん。ちゃんと貴方様好みの服装を用意しておりますよ」
「そんなら早く着替えて来いよ」
「次のステージでね」
「何だ、次のステージって?」
「次の歌の時」
「まるで本職気取りだな、ステージだなんて」
「まあ見てらっしゃい。ここにいるお客がみんなびっくりして座りしょんべん漏らしちゃうような服装を用意しているから」
「汚ねえな。もうちょっと上品な言葉が使えないのか?」
「それはみんなオサムの影響です」
「俺がそういう汚い言葉を使うか?」
「汚い言葉しか使わないじゃない」
「縛ってローソク垂らしても反抗心は無くならないみたいだな」
「反抗心なんて無いよ。大体好きでやられてるのに、何でそれで私がおとなしくなると思うの?」
「やっぱり好きでやられてるのか」
「ネェ、ローソクとか浣腸とかって、本当にそんなことやってるの?」
「バカねえ、酔ってる男女の言うことをいちいち真に受けないでよ」
「でも酔ってないときも梨花達は良くそういう話をしてるじゃない」
「それはだからね、それについては今度梨花のいない所でゆっくり俺が」
と言った途端に梨花のゲンコツがコツンとオサムの頭に飛んだ。勿論じゅうぶん手加減した馴れ合いのじゃれ合いである。ヨーコは呆れた顔をしただけで 「ちょっと他の席に顔を出して来るね」
と言って立ち去ってしまった。
次の曲が梨花の入れた曲でマドンナのラ・イスラ・ボニータ。
しずしずとマイクの前まで歩いていって、イントロが始まると腰をくねらせながらスカートをはらりと下に落とした。すると黒いゴムのタイツ姿であった。以前これを着ていて痴漢に追いかけられたという奴である。下には三角のオサムの下着がかすかに透けて見えている。客はやんやの喝采で場をさらうというのはこういうのを言うのだろう。それは下手なストリップよりも余程セクシーで、誰も梨花の歌など聞いていなかった。梨花の歌はなかなか上手なのに残念なことである。十分に店内を湧かせまくって歌い終わると更に伴奏も無いまま暫くマイクの前で踊ってそれから悠然と帰ってくる。豊かな曲線を描く梨花の尻の辺り、股間の辺りに客の視線は集中したが、梨花は時々クルリとターンして歩きながら存分に見てくれと言っているようでさえある。それくらいの神経でなければこんな服装は出来ないだろう。
激しく踊りながら歌ったものだから首筋や臍の辺りに汗が光っている。フィンガー・ウェーブの髪はまるでメドゥーサのように渦巻き、息を弾ませている。長いスカートをひらひら片手に振りながら歩いているので、酔ったお客が闘牛の真似をして指で角を作り突撃する振りをすると梨花もちょっと立ち止まって闘牛士よろしくスカートをひらりと振り回してサービスしてやったりして、それから満面の笑みを浮かべてオサムの席に気取った足取りで帰ってきた。
「そのチューブの下はどうなってるの? どんなブラをしてるの? さっきから気になっているんだけど」
「覗いてごらん」
そう言って梨花はオサムの前に胸を突きだしてチューブの上端をちょっとつまんで開いて見せた。
「あっ、透明のブラだ」
「また始まった、おっさん。こういうのをノーブラって言うんだよ」
「おいおい、お父さんとかおっさんとか激しく言葉が変わるな」
「さああんまり酔っぱらわない内に帰ろうか」
「全然酔っぱらってないよ、まだ。もう少し飲んでから帰ろうよ。おっかさん」
「ほら、そういう言い方は酔っている証拠」
「どういう言い方」
「急に甘えた言い方になっちゃうのよ、普段は暴君ネロのくせに」
「いいじゃないか、酒飲んだときくらい女に甘えたいよ」
「もういいの、ほら早くおうちに帰ろう。おっかさんのおっぱい吸わせてあげるから」
「ムムムム」
おっぱいに弱いオサムがそれじゃぁと腰を上げ掛かったところにまたヨーコがやってきた。