片山未来(25)その2-3
席へコーヒーを持ってきた未来に、俺は言った。
「悪いんだけど、当分は会えないよ」
「えっ!?」
楽しみにしていたご馳走を地べたへと叩きつけられたチビっ子のような顔をする未来だった。
「他にも俺のチンポ待ってる人妻がいっぱいいるんだよね。俺のこと独占したいってんなら、皆さんに金でも払ってお願いしないと、申し訳が立たないよ? 俺としても、未来ばっかり抱いてんの飽きるし」
残酷な台詞を突きつけるたび、未来の顔から血の気が引いていった。
「仕事しろって。いつまで一人の客の前で突っ立ってる訳?」
すごすごとカウンターのほうまで歩いていく未来の足取りは、死刑宣告を受けた被告人の退廷を思わせた。
犯さないことが、一番のお仕置きになるとは。
あそこまでショックを受けるものかと、俺はいささか呵責を感じた。
ハメ撮りの動画をネットに流したとしても、未来は自殺なんかしないかもしれない。しかし、あのときの落ち込みようは、死んじまうんじゃないかと心配になるくらいだった。
──いいじゃねえか。復讐したかったんだろ。未来がヤッてもらえなくて首でもくくるんなら、本望だろ?
俺の中の悪魔が囁く。
しかし俺は、芯まで悪魔にはなれない。
こちらから連絡してまではやらないまでも、それまで毎晩未来から発信されてきていたメッセージが、再び来ないかとじりじりしながらスマホをチェックした。
未来から連絡が来たのは、それから五日も経ってからだった。
しかもメッセージではなく電話だった。
重い話になるのを恐れるより、案じる心が先に立った。
まず詫びようか、どうしようか、迷いつつ出た俺の耳に、
『亮介、助けて。お願い……』
思っていたのとは違った声の調子が語りかけてきた。
「助けてって、どうしたの」
俺の声を聞いて、たちまち泣き出す未来だった。
『亮介にしか相談出来なくて……わたし、どうしたらいいか!』
「何があった? 落ち着いて言ってみろ」
『また脅してくる人が現れたの!』
予想の斜め上を行く展開が、俺を待ち受けていた。