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よだかの星に微笑みを(第一部)
【SF 官能小説】

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ハクビシン-2

「ん?」
泥酔していた俺は目を覚ました。暗い。虫の声。いつのまにか布団に入っている。田舎の夜は早く、皆もう寝静まっていた。飲み過ぎで、おかしな時間に俺は却って目が覚めてしまったのだ。
「あれ?」
虫の感覚が働いた。ポリアンナのおしっこサインかと思ったが、違う。いつかの、先輩らしい虫を空で見た時の「肌触り」に似ていた。改造人間が飛行しているらしい。それも、五人はいる。
「なんでここに? イノシシもアライグマもあいつらが?」
泥酔していた俺は、服を脱ぎ、自分の意志で虫になった。そして飛んだ。計画も何もない、衝動任せだった。
「居やがった。」
俺は五十メートルほど後ろに付いて飛び、ステルス機能を使った。ところが、向こうの声が聞こえてきた。
「誰か他にいる気がしたが、感じなかったか。」
「つい先ほど感じました。しかし今は特定できません。」
「幹部連中の監視かな。」
「ドラマか漫画じゃないんですから。」
男一人に女が四人だ。
「ハクビシン、行けるか。」
「はい。」
何の話だ? この辺りにハクビシンが出るとは聞くけれど。
俺は更に近くへ寄っていった。
派手な色の蛾のような女たちと、背中にまで角のあるカブトムシの男だった。
女たちは輪になった。
「岡田先輩、この技、女としてすごく恥ずかしいんですけど。」
「元に戻っても今度やってみせてくれ。」
「嫌です、恥ずかしい。」
学生のような会話だ。高校生か。岡田って、聞いた事があるような。
女たちの股間が開いた。何かを発散している。暫くそのままでいたが、下の林がざわめいてきた。
ハクビシンだった。続々と集まってくる。何百匹いるか分からない。
「まあ、こんなものだろう。漏れはありそうにないな。」
男が言った。女たちが輪を解き、男の周りに集まった。
「始めるか。」
男の角が発光し始めた。
「おい、やめろ!」
俺は思わず言ってしまった。五人が一斉に振り向いた。
「誰だ? いつから居た?」
男が狼狽した。
「なんで気づかなかったの?!」
「この人、普通じゃないよ。」
「どこかの地区の長の人ですか。」
不良ではないらしい。俺は
「そのハクビシン、どうするの?」
カブトムシが
「知らないなんて、おかしいな。あなた、どなた?」
蛾の一人が
「先輩、私たちと同じ姿です。対抗勢力じゃありません。それに」
俺は口を挟んだ。
「今、酔ってるんだ。ごめん。」
カブトムシは怒り出した。
「こんな人がいるなんて、信じられない。誰か知らないが、邪魔しないで、見てなさいよ。」
「おい、殺すなよ。」
俺が言ったらカブトムシは
「あなた、大丈夫ですか。殺すわけないでしょうが! あまり怪しいようだったら、規則に則って攻撃しますよ。」
蛾の一人が
「岡田先輩には、それ、無理だと思います。」
マイペースな女だなと思った。先入観だが、きっと、普段は地味でメガネを掛けているだろう。
カブトムシは、女と俺を無視して作業を始めた。角の光が強まると、林のハクビシンが静かになった。それから、ハクビシンは塊となって空へ浮き上がった。
「じゃ、行こうか。」
カブトムシが女たちに言ったので俺は
「どこに行くんだ?」
「あなたねえ、いちいちうるさいよ。いい加減にしろよ!」
「先輩! だめ!」
カブトムシのかざした片手の光に圧を感じた。よけるのはどうという事もなかったが、外れたその何かは、遠くの森の木をなぎ倒していった。
これは、猫が轢かれそうだった時に俺がしたあれだろうか。破壊力はまるで違う。
俺はよけると同時にステルス機能を使った。
「ん?! 吹き飛んだか? いなくなった。」
「先輩、私たちはあの人に勝てません。反撃されたらどうするんですか!」
「一瞬でいなくなりましたよ!」
「俺は酔っ払いと、妹みたいに頭の悪い奴が嫌いなんだよ。」
俺は真横にまだいるのである。殴ってみようかと思った。酔っ払いは当たりだが、頭が悪いと言われるほど悪くはないつもりだ。妹って誰だ。しかし、酔って喧嘩をする気はない。
マイペース女が言った。
「あの人が水戸黄門みたいな人だったら、先輩、報告されますよ。」
カブトムシは聞こえていないふうで
「まあ、居なくなったんだし、いいか。ハクビシンを無事に移動しないとな。行こう。」
ハクビシンの塊を連れた五人の虫は高速で去っていった。


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