プロローグ-1
某合衆国・ヒューストン━
それはそれは、激しい雨が降りしきる夜のこと。
「━…坊主、名前は?」
耳に心地の良い低い声。
警察官だと思われる青の制服を身にまとった男が、ボロボロの服を着た少年の目線に合うようにしゃがみ込みながら、ゆったりとした口調で問う。
「…ない。」
高い綺麗な声で、辿々しい英語を紡ぐ少年。
ここら辺では見かけない銀色に輝く髪。襟足を肩甲骨辺りまで伸ばし、三つ編みに結っている。
「…年は?」
「…6。」
「そうか…。銀髪なんて珍しいな。生まれた国…なんて、知ってるか?」
「…知らない。」
「だよ、な。父ちゃんと母ちゃんはどこにいるんだ?」
「…いない。」
「そっ…か…。住んでる家は?」
「……。」
「…それじゃあ…家、来るか?」
ガランガラン…
玄関口のドアが開くと鳴る、くぐもった音のベルが鳴り響く。
「ジュリアッ、ジュリアッ!」
微かな雨の匂いと共に聞こえる、いつもの声。
「はいはぁい、今行きますよ。」
トタトタと廊下を小走りに玄関へと急ぐ。
「おかえりなさい。雨に濡れたで…」
いつもの通り玄関口で笑っている自分の夫・ユウ。
いつもと違うのは、ずぶ濡れでビショビショだということと、ユウの傍らで、同じくずぶ濡れで立っている子供がいるということ。
「ユ…ユウ…、その子…もしかして…」
「え?あぁ、この子か?この子は…」
「わかってる!わかってるわ…。」
明らかに動揺したような表情を見せる嫁・ジュリア。
その表情に疑問を抱くユウ。
「…本当にわかってるのか?この子は…」
「隠し子でしょ?!」
やはりわかってなかったかと、ユウは盛大なため息を吐く。
「…事情は後で説明するから、とりあえず風呂の用意をしてくれ。」