痴漢専用車両の在り方-3
『でしょう。ホントに僅かな事だと思うよ。それで苦しむなんて可哀想に…』
寛子が目頭を抑えた。しかし、記憶をなぞられた陽子に、その頃からの罪悪感が膨れ上がっていた。自分を赦せない程の罪悪感だ。
「可哀想?そんなんじゃないですよ…。例え…例え僅かでも…そう思ったのはあたしだよ…慰めにもならないよ…」
『ホントダメね。情報解析のスペシャリストが身近に居るから頼りにしてたんだけど、自分の事でこんなになるんだったら、出てきた答えも危ういかな』
「そのとおりです…、あたしなんて…、ううっ…」
少しは自信を持っていたが、それでも自分の出す答えにはいつも不安が付きまとっていた。星司を助けたい一心で【痴漢専用車両】のシステムを作った時もいつも不安だった。
紙一重で成功したものの、優子との出会いがなければどうなっていたかわからなかった。それを反芻する度に肝が冷えた。それを客観的に指摘された陽子は、ただ受け入れるしかなかった。
『でもね、聞いて。そんな陽子さんだからあたし達は安心できるんだと思うよ』
これまでと一転して由香里の口調が柔らかくなった。
「えっ?」
『だってそうでしょ。あなたは人間なのよ。それともあなたは自分の好きな0か1しかないコンピューターになりたいの?』
「0か1…」
『由香里先生の言うとおりよ。あなたのそんなところを知った上で、悠子さんもあなたのところに戻って来たんじゃないの。だって悠子さんには星司さん以上に心が読めるのよ。本人も気にしてないのに、気にしたらダメよ。あっ、こんな言い方は0点だわ。あのね、気になる事があったら一緒に悩もうよ。あなたには普通では考えられない仲間が居るのよ』
「仲間…」
『寛子さん、60点です。そこは【あなたには】ではなく【あたし達には】が正解です。だって、あたしってか弱いから、みんなを頼っちゃうもの』
『うふふ、おかしいな。由香里先生が言えば【利用】って聞こえるよ』
『うふふ、わかる?だって陽子さんにくっついてたら、自然とイケメンが集まってくるのよ。利用しない手はないって』
『わかるう。あっ、ダメ、おまんこ濡れてきちゃった』
『やあねえ、エロい人妻は。あん、見て、あたしも濡れ濡れよ』
『このエロ教師!そのエッチなおまんこをみんなに見せなさい』
あとは、ゲストとプレイヤーが交じって好き勝手に喋り始めた。まるで、陽子の悩みなど始めから無かったかの用に。
仲間達のやり取りを聞きながら陽子は呆然としていた。そんな陽子の頭を星司がポンと叩いた。
「と言うことだ。陽子はこの仲間達と、それ以上に雄一と離れたいのか?」
「でも…」
「わかってる。自分の心に折り合いを付けるには時間が必要だ」
『仲間もよ』
オナニーを披露しながら、しっかり聞く耳を立てていた由香里に釘を刺された。
「そうでした。ほら、そんな顔してたら由香里先生がオナニーに集中できないだろ」
「でも、こんなあやふやなままで」
「由香里先生がわざとこんな幕引きをした事くらいわかるだろ。白黒付けなくていいというメッセージだ。それでも納得できないならオレの記憶も見せてやるよ」
「星司の記憶?」
「ああ、オレも陽子と同じだったんだ。その事で帰ってきた悠子にボロクソに言われたよ」
「どういう事?」
「これを見ればわかる。オレは悠子が死んだ時に、どこかでホッとした自分が居たんだよ。これでコソコソと隠れる生活から解放されるってな」
「うそ…」
星司は陽子の頭に手を置いて自分の記憶を流した。自分が感じていた以上の悲しみが陽子の心に流れた。