第四話-4
夢中で自分を貪る佐伯をよそに、孝顕は手早く牡をズボンから引き出した。成長途中の陰茎は普段は幾らか包皮が残り完全には先端が露出していない。まだ硬度の足りない牡の鈴口周辺に指を這わせ、吐き出されはじめた液をまぶしながら完全に亀頭を露出させると、数回扱きあげて強引に起立させる。
気持ちと乖離(かいり)した行為は苦痛でしかないが、感情の一切を顧みることなく、ただ欲望のための道具になった。
充分な硬さを得られた屹立に避妊具を装着する。佐伯の腰を横に向けさせ、太腿に残る下着で脚が閉じたままの尻を片手で割り広げた。唾液と淫液でいやらしく濡れそぼるそれへ、一息に己を押し込む。
「ふぁあっ――!」
堪え切れずに高い声を上げ肢体をうねらせる教師を無視して、腰を前後にスラストさせる。
彼女の欲望に応じながら、孝顕は快楽に溺れ乱れていく姿を冷静な目で観察していた。
◆ ◆ ◆
「はぁ……」
湯船に肩までつかると口から気の抜けた溜息が漏れた。身体を伸ばし浴槽の縁(へり)に腕をかけてボンヤリと湯気に曇る天井を見つめる。
どうにか佐伯を満足させられた孝顕は、無駄話で事後を長引かせようとする佐伯を適当にかわして帰路についた。近頃、佐伯は行為の後にだらだらと話しかけ、引き留めようとする事があった。何がしたいのか、何を求めているのか、はっきり言って理解に苦しむ。
性交後のだるさを癒すように、ゆっくりと瞼を閉じた。
上手く誤魔化せただろうか。最終的に欲に塗れてくれたお陰で深く追求されずに済んだけれど、呼び出しを無視し続けるのも難しい。かといって、ガールフレンドに夢中です。という姿勢を見せても引き下がってはくれないだろう。
どうすればいい。
ふと、視線が重なるだけで頬を染める少女を思い出した。いちいち素直で初々しい反応を示し、見ていて飽きない。うわべだけを取り繕っている自分とはまるで違う。
よく笑い、よく話し、快活な少女は一時でも嫌な事を忘れさせてくれた。思い出し、孝顕の口元が微かに緩みかけたのもつかの間、すぐに引き締められた。
ソファーにしどけなく横たわる少女の、濡れた瞳と上気した肌が記憶を過る。何かを期待する視線に、佐伯の熱に浮かされた眼が重なった。
「――――っ」
先ほどよりも深く息を吐き出した。
そう、分かっている。
気づいていながら、かわし続けている。
意識しているのか無意識なのかは分らない兼山の見せる小さな誘い掛けから、孝顕は目をそらし続けていた。
「どうする……」
脳裏に浮かんだそれらを振り切るように、孝顕は勢いよく湯船から立ち上がった。
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