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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第三話-1

  ◆  ◆  ◆
  【 第二章 】
  ◆  ◆  ◆


「いっ、一年D組の兼山裕子(かねやまゆうこ)ですっ。あの、すっ……好きなんですっ! ……私と……、つき合って下さいっ! お願いしますッ!!」
 目の前で少女が勢いよく頭を下げた。短めのポニーテールが動きにあわせて飛び跳ねる。どこかで見たテレビ番組のような威勢のいい素振りに孝顕は驚き、一瞬目を見開く。
 時間は昼休み。場所は中等部校舎の裏手にある花壇の前。さらに向うは、学院の敷地と周囲を分けるように小さな林がある。
 近くに、人はいないように見えた。
「兼山、裕子さん……」
 孝顕は思案気に首を傾げた。
「あっ! C組には友達がいるから、よく皆と顔出してるんですけど……。それで夜刀神君のこと、ずっと、気になってて……」
 休み時間、にぎやかな教室の中で孝顕は大抵、本を読んでいるか窓を眺めているかのどちらかだった。友人とは時折話す程度。かといって孤立している訳でもない。
 頬杖をつき窓の外を眺める孝顕の姿はとても綺麗で、友人と話しながら、兼山はちょくちょく見惚れていた。聞けば、C組にも孝顕を好きだという子は少なからずいるらしいが、近寄りがたいのか誰も告白しないのだという。
 そんな訳で、未だフリーの孝顕に 「いっそ告白したらいいじゃん?」 と友人達に無理矢理背中を押された。教室では多分友達が結果報告を待っている筈だ。どうせなら付き添って欲しかったのに断られたところを見ると、もしかしたらこっそりどこぞから見ているかもしれない。
 少しだけ考える風だったが何か思い出したのか、孝顕は納得するように軽く頷く。
「そう」
「あのぅ……」
 半ばやけっぱちの玉砕覚悟だった兼山は不安になって顔を上げた。
「……いいよ」
 孝顕は薄く微笑みながら応じる。
「! 本当っ?!」
 ガバッと音がしそうな動作で身体を起こし、少女は驚きの表情で声もなく唇を開閉した。
「うん」
「…………」
 改めて孝顕が頷くと、兼山は 「はあ〜」 と大きく息を吐き出した。気が抜けてその場にしゃがみ込み両手で口を被う。大げさな素振りに彼が思わず覗き込めば、よかった、よかった……。と、何度も呟いている。よほど嬉しかったのだろう。
 少女漫画みたいな反応は本当にあるんだな、と孝顕は明後日の方向へ感心した。
「大丈夫? 兼山さん」
「あっ、ハイ……。あの……、大丈夫。ありがとう夜刀神君……」
 兼山は孝顕の顔をまっすぐに見つめ返す。満面の笑顔で答えた彼女の目は、喜びに満ち溢れてきらきらと輝いているようだ。孝顕が手を貸す前に立ち上がり、素早くスカートの裾を払って身なりを整える。
「彼女なんて初めてだよ。よろしくね、兼山さん」
 孝顕は右手を少女に差し出した。
 耳まで赤く染まった兼山が恐る恐る自分の手を重ねる。その手が震えている事に気付き、余計恥ずかしくなって思わず顔を伏せてしまった。
「あのぅ、うん。こちら、こそ……」
 へどもどしながら辛うじて答える。
 温かく柔らかな手を、孝顕は優しく包みこんだ。
 遠くには鳶(とび)の声。
 そろそろ昼休みが終る頃だろうか。
 孝顕はできるかぎりの気持ちを込め、少女のために笑顔を見せた。
 雨上がりの真っ青な空を鳶が舞う。雲は殆んどなく、日差しは強さを増していく一方だ。
 七月初旬。本格的な夏が、目前に迫っている。

  ◆  ◆  ◆


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