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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第二話-11


 結局今のままでは、この状況を変えることは難しいのだ。出来ることはないに等しい。関係を断ち切ることも、さしたる抵抗も出来ず、嫌悪しながら彼女の欲望に答え続けるしかない。
 今できるのは無抵抗でいること、何も考えず何も感じないこと。

 人気のまばらになった体育館の中をまっすぐ突っ切った。外廊下を使うより近道なのだ。
 校舎につながる廊下にある給水場で丁寧に口をすすぎ、手を洗う。制服の上着のポケットから、小さいスプレー瓶を取り出すと両手に吹き付けた。一般家庭用の消毒用アルコールだ。佐伯の中に入れた指は特に丹念にスプレーし、関節のしわや爪の間など細かいところまで執拗に摺りこむ。そうして改めて手を洗い直し、ハンドクリームをつけた。手を洗うことが増えたせいか肌が荒れるようになっていた。
 壁にはまっている鏡でざっと身なりを確認し、給水場から出て再び走り出す。段飛ばしで階段を上り切り、二階の廊下を走っている途中で予鈴が鳴り響いた。授業開始五分前。廊下にいた周りの生徒達も続々と各自の教室に入っていく。
 教室の前に辿り着くと、扉を開ける前に軽く深呼吸をして息を落ち着かせた。廊下は静まり返っている。腕時計に目をやればもう幾らも時間が無い。
 中からはクラスメイト達のざわめきが聞こえる。宿題がどうの、今日当てられるのは誰だのと切れ切れに耳に届く。

 扉の向うにあるのは日常。

 髪を手櫛で整えネクタイを再度確認し上着の襟を整えた。軽く息を吸い込み目蓋を閉じる。
 数分前まで痴態を繰り広げていた自分を切捨て、「夜刀神孝顕という生徒」 を瞬時に作り上げる。
 再び目蓋を開ければ、そこに居るのは普通の中学生だ。
 瞳は穏やかで、口元には大人しそうな笑みが浮かぶ。

 孝顕は扉に手をかけ、静かに引き開けた。

  ◆  ◆  ◆


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