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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第三話-2

  ◆  ◆  ◆

 あの夜刀神に、遂に彼女が出来た。

 その噂は一年C組にあっという間に広まった。
 クラスメイトがエッチな話や恋愛話に花を咲かせる中、孝顕はこの手の話には一切乗った事が無いからだ。どんなに話題をふっても曖昧に答えてはぐらかしてしまう。興味がないのかエッチな話が苦手なのか、はたまた……。周りはみな孝顕について口さがなく噂していた。
 夜刀神に彼女がいないのが不思議だ。
 クラスメイト達はみなそう思っていた。
 孝顕の外見はそれなりに整っている。本人には悪いが少女のようだった。日焼けしていない肌理(きめ)細かい肌に、癖のないさらりとした黒髪。身体つきは華奢であるが貧相ではなく、余分な贅肉もなく適度に均整が取れている。
 加えて穏やかな雰囲気と柔らかな物腰。ついでに勉強でも成績は現在上位をキープしている。ゆくゆくは進学組みトップクラスと目されていて、教師からの評価も高い。他の生徒からのやっかみも多少はあるが、大人しい性質が幸いして、これといった問題もおきてはいなかった。
 まだ中学生、けれど冗談のようなハイスペック。女子達が放置する筈がないのだ。


 六時限目が終わり、後はホームルームのみ。周囲の生徒が早々に帰り支度をする中、孝顕も教科書類を鞄に詰め始める。ふと、鞄のポケットが振動したのに気付き、携帯を取り出して届いたメールを確認した。短く返信を書いて送信し再び帰り支度を始める。
 教室から去り際、話かけられた佐伯は生徒に気安く応じながら、孝顕の様子を視界の端に捉えていた――。

 生徒用駐輪場から自分の自転車を引き出した所で、背後から声がかけられた。聞きなれた呼びかけに孝顕はぎくりと肩をゆらす。表情が自然と険しくなる。
「もう帰るの? 夜刀神君」
 孝顕はざわつく気持ちを抑えつつ、普段通りの穏やかな表情で振り向いた。視線の先では佐伯がクラス名簿を片手に笑顔で立っている。
 不機嫌だ。
 いつもの笑顔は、よく見ると目が全く笑っていない。
「今日は 『明日の授業準備を手伝って欲しい』 って、言っておいたと思うんだけどな」
「え?! そうでしたっけ? 実は友達との約束を入れてしまって、今更断るわけにも……。すみません先生」
 孝顕はすっかり忘れていた風で、申し訳無さそうに苦笑を浮かべた。
 佐伯の目が僅かに細められる。
「ふーん。約束ねぇ……」
 聞くだけなら穏やかな会話だが、二人の間に漂う空気は緊張で張り詰めている。孝顕は穏やかさを維持したまま、内心冷や汗をかいていた。自転車のハンドルを握る手に力が篭る。
「夜刀神君!」
 緊迫感の漂う中に突如、高く弾んだ声が割り込んだ。佐伯の後ろから少女が駆け足でやってくる。
「兼山さん」
 息を切らせる少女に孝顕が笑いかけた。
「遅くなってごめんね」
「大丈夫だよ」
 そこでやっと、兼山は背後の教師を振り返る。
「千鶴ちゃん?」
「んーん。偶然見かけたから話してたの。さようなら、二人とも。気をつけて帰ってね。くれぐれも、オイタしちゃ駄目よ」
 佐伯が揶揄い半分で別れの挨拶をすると、少女は真っ赤な顔で叫んだ。
「そんな事しません!」
「はは〜ん。どうかな〜」
 にしし、と佐伯がイタズラっぽく笑う。
「もーっ。千鶴ちゃんの意地悪!」
 ひとしきり生徒を揶揄い、佐伯は笑いながら校舎の中へ戻っていった。含みを持たせた視線をそれとなく孝顕に送りつけながら。
 去っていく後姿を見つめ、孝顕は安堵の溜息をつく。自転車のハンドルを強く握ったままだった手を意識して緩めた。身体が強張っていた。小さく深呼吸すると、気持ちを切り替えるように目の前の少女に声をかける。
「帰ろうか、兼山さん」
「うん」
 二人は顔を見合わせ、正門を目指して歩き始めた。


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