薄荷-4
僕はその場を立ち去った。
後ろは振り返らずに。
僕がこれで劇的に変わったかと云うと、そんな事はない。
相変わらず摺り足で生きているし、両親にも云えないままだ。
きっと僕が狭くて心地良いクローゼットから出るには、もっとたくさんのきっかけが要るだろう。
一生、これ以上外には出ないで、誤魔化しの結婚をするかも知れない。
でも、僕のクローゼットには健吾を見つめる為の小さい穴が開いた。
それはとても小さいけれど、今までとは明らかに違う。僕は少しだけ変わったんだ。
外には、彼が居ると知ったから。
いつか僕が愛する誰かが辛い時に、その手を握ってあげられるようになった時。
その時は、健吾に会いに行こう。
きっと彼はいつものように、笑ってくれるだろうから。
僕はゲイだ。
でも。
もう孤独じゃない。
(了)