薄荷-3
さよならを云う為に健吾を探す。
泣かないと良い、と思う。困らせたくない。
学校を探し回って、僕は健吾を裏庭で見つけた。
人気のない、喧騒から離れた場所。
「健吾先輩」
「良君」
健吾はいつもの顔で笑ってくれた。
僕の大好きな、優しい善良な笑顔。
「卒業おめでとうございます」
「うん」
健吾は笑ったまま、お菓子の入ったケースを振り、僕にミントの飴をくれた。
「あ、ありがとうございます」
口に入れてみると、痛い程辛い。
「良君、ミントとハッカって、大して違わないんだよ。なのにハッカは結晶に出来て、ミントは出来ない」
「はあ…」
意味が解らない。
「同じようなものなのに、全然違うんだ。人もそうだよ」
健吾は僕の目の前に立った。
「葉っぱから油は少ししか取れないから、必要な油を取れば葉っぱのカスはいらない。荷物が軽くなる。だから薄い荷物と書いて薄荷なんだ」
そう云うと健吾はあの真面目な顔をした。
「君の荷物が軽くなる事を、俺はずっと祈ってるよ」
手を差し出してくれたから、僕は俯いてその手を握った。
温かい。温かい。
これが最初で最後の触れ合いだなんてこと、僕はずっと解っていた。
涙は堪えられなかった。
下を向いたまま、僕は云う。
「健吾先輩に会えて良かった。本当です」
「うん」
「ずっと…僕は」
僕は唇を噛んだ。
どうしても云えなかった。
好きでした。好きでした。
すきでした。
健吾はただ、うん、と云った。
一番好きな優しい声だった。
ありがとう。
僕はこれで生きて行ける。
貴方に会えて、良かった。
報われない恋は辛くて、身を斬られるような夜もたくさんあったけれど。
貴方を好きになって良かった。本当に、心からそう思う。
僕は涙を拭って、手を離した。
必死で笑顔を作って彼の顔を最後に一度だけ、目に焼き付ける。
笑っていてくれてありがとう。
さようなら、健吾。