ン-2
プロジェクトも終盤に差し掛かってきたとき
秘書課に用事があって夕方近くに会議室の階に降りると
給湯室で何やら話し声が聞こえて
コーヒーを淹れてるの?
近づくにつれその声が鮮明になった。
「は?俺結婚する気なんか全くないよ?」
周りの笑い声とは裏腹に
岡本主任の真剣な、冷めた口調が聞こえて来て
あぁ、やっぱり―――
それが瞬時に思った感想だった。
小さく手が震えて、左手の小指にはまっているピンキーリングを右手で必死に探す。
ゆっくりとその場を離れて
そっと、今さっきのってきたエレベーターに再び飛び乗る。
無意識のうちに触っていたのはピンキーリングで
大丈夫。
やっぱり無意識のうちに自分に言い聞かせる
大丈夫。
まだ本気になってないから。
大丈夫。
何、が?
大丈夫なの?
本当に?
大丈夫。
どこが?
訳の分からない言葉の羅列が次々と頭に浮かんで
私は、考えるのを止める以外・・・
涙を止める術を知らなかった―――