『茜色の空に、side:秦一』-8
明香さんは僕に、夕陽が美しいとか、星が綺麗だとか、海を眺めていると落ち着くとか、そうした当たり前の様で、僕が今迄気付かなかった事を教えてくれた人だ。
それはいつも、「綺麗でしょ」とゆう押し付けがましいものでは決してなく、明香さんの空間に自然に僕が引き込まれ気付かされていくのだった。
そして同時に僕は明香さん自身に引き込まれていた。
夕陽に赤く染められた明香さんの横顔を見ていると、折角結ばれたのに、このまま別れねばならない事に愕然とする。
「折角両想いになれたのに、遠距離かあ〜。」
「んー。でもさ、電車で2時間も掛からないし。中距離、ってトコじゃない?」
呟く僕に、明るく答える明香さん。僕だけが寂しがっているみたいでちょっと悔しい。
「・・。会いに来てくれる?」
横に座る明香さんの肩を抱き寄せ、見つめる。
「うん。」
頷く明香さんの顔が赤いのは夕陽だけのせいではない。可愛いなあ。
つい今しがた一人で勝手に拗ねていたのをすっかり忘れてしまって、ここが外であるにも拘らずキスをする。向こうの方に犬の散歩をさせるおじさんがいるがこっちは見ていない。
そうして茜色の夕陽を背に、二人で駅へ向かい、同じ新幹線に乗り込む。
比較的空いている車内で並んで座り、手を握り合ったまま別れを惜しむ様に話をする。
先に降りる僕は、電話する、メールする、会いに行く、などしつこく明香さんに宣言して、最後にこっそり口づけた。
とうとう新幹線を降りなければならなくなった僕は、ホームに降り立ち、明香さんの座る車両に駆け寄る。
明香さんは窓越しに切なく微笑み、僕に手を振る。
僕は思わず涙が出そうになったが、ぐっと堪えて、発車する新幹線を立ち尽くしたまま見送った。
寂しくなったホームには、明香さんと僕が大好きな茜色の夕陽の名残りを残していた。