『茜色の空に、side:秦一』-2
「ん?」
不思議そうに僕を覗き込む。
「いや。何でもないよ。相変わらず明香さん、お酒強いねー。」
何となく慌ててしまい、話をそらす。
ふふふ、と微笑む明香さんを見ていると、もっと一緒に居たくなった。もっと二人で──。
「ね、センパイ、飲み直さない?」
ちょっと勇気を出して誘ってみる。
「んー。いいけど。」
え?そうなんだ。前なら男と二人きりでどっか行くなんて絶対しなかったのに。
ちょっと拍子抜けしてしまう。
どこに行こう、と聞かれて、ゆっくり出来るし、僕の泊まるホテルに誘う。
途端、明香さんがもごもごする。
しまった。下心があるって思われたかな。
いや、全く無い、って言ったら嘘になるけど、純粋に、静かに二人で居たい、そう思っただけだ。
結局、二人でホテルに向かう。
すぐ下のコンビニで色々買って、僕の泊まる部屋へ。
早速缶ビールを開け、改めてお互いの近況を話し合う。
明香さんは総合病院の事務をしていて毎日忙しい事、 僕は大学で履修していた学科を活かした仕事に就いている事、地元に出来たお店の事など、とりとめもなく話した。
ふと気になっていた疑問を口にする。
「そういやさ、明香さん、彼氏は?」
明香さんの恋人は確か地元の人だ。
明香さんが卒業してから2年半の間、先輩達は何回かこっちで集まった事がある。
だけど、そんな時に、明香さんはその人と連絡を取っている様な素振りは見せなかった。
学生の時は帰る前には必ず携帯から電話をしていたのに。
今日だって、こんな遅くに僕と二人きり──。
「え。とっくに別れたよ。私が卒業するかしないか位に。知らなかった?」
知らなかった。あんなに仲良かったのに。嬉しいよりも、いけない事を聞いてしまったという自責の念にかられる。
「・・・。ごめん。嫌な事聞いて。」
ちょっとシュンとしてしまう。
「え、別に?もうずっと前の話だし。もう全然ヘイキ。」
ニコリ、と優しく微笑む明香さん。可愛くって優雅だ。
僕に気を遣わせない様にしているだけかもしれないが、それでも僕は十分嬉しかった。
「今は?彼氏、いないの?」
調子に乗って聞いてみる。
が、逆に僕に彼女はいないのか聞かれてしまう。
「・・・。いないよ。」
こんなに好きな人が目の前にいるのに。
「えー。もったいないねー。しんちゃん、可愛いのにー。」
無邪気に明香さんが言う。
からかわれていると分かっていても、顔が熱くなる。
全然いないわけじゃなかった。
明香さんが卒業して、もう忘れなきゃいけない、と思い、何人かの女の子と付き合ってきた。