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亜紀
【その他 官能小説】

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亜紀-19

 「何だこれは」
 「下着」
 「僕はトランクスしか穿かん」
 「あら、それは知らなかったわ。でもブリーフの方が若々しいわよ」
 「僕は若くは無いんだ」
 「だからせめて若々しく装わないと」
 「大きなお世話だ」
 「今日はね、私が弾いているピアノのテープを持ってきてるのよ。聴いてくれる?」
 「ほう、聴いてみよう」
 「下手だけど笑わないでね」
 「ハハハ」
 「まだ始まって無いわ」
 「・・・」
 「どうだった?」
 「いや上手いね」
 「本当?」
 「だってちゃんとピアノの音に聞こえた」
 「馬鹿、真面目に批評してよ」
 「月光ソナタはルービンシュタインのCDを持っているが、それよりは下手だな」
 「当たり前じゃない。そんな人と比較しないでよ」
 「僕より上手い」
 「あら、小野田さんピアノを弾くの?」
 「いや、触ったことも無い」
 「馬鹿、ちゃんと真面目に批評してよ」
 「意外にあっさり淡々と弾いているな」
 「そう、先生がこの曲は余り思い入れが強すぎると品が無くなると言うから」
 「そうだな、僕もそう思う。尤も凄いテクニシャンならそれでも通用するだろうが」
 「私の演奏どう思った?」
 「素直で、別人が弾いているのかと思った」
 「私は素直でないっていうこと?」
 「君が素直であれば僕の言うことを聞いて教団に近づかなかっただろうし、そうすればこうして今君が此処にはいない訳だ」
 「それじゃ素直でなくて良かったんじゃない」
 「それはどういう意味だ?」
 「だってそのお陰で私達親密になれたんだもの」
 「誰と誰が親密なんだ?」
 「私と貴方」
 「ピアノの演奏は押しつけがましさが無いんだが、あれは性格とは関係無いのかな」
 「あらピアノの演奏くらい性格が如実に出るものは無いんだそうよ」
 「そうか、それじゃ何処かでテープを人のと取り違えて来たな」
 「私の演奏です」
 「もう1回聴いてみるか」
 「うん何回でも聴いて」
 「やっぱりテクニックが不足しているんだろうな」
 「何処が?」
 「何処がとは言えない。だけどプロはゆっくり弾いてもたどたどしい感じは受けないが、君の第1楽章はたどたどしく聞こえる」
 「そうお?」
 「アメリカ人がゆっくり英語を喋っても英語に聞こえるが、日本人がゆっくり喋ると英語に聞こえなくなるんだ。それと同じだな」
 「へーえ、上手いこと言うわね」
 「しかしこれだけ弾ければ大したもんだ」
 「自分の演奏は沢山録音してあるんだけど、これが1番いい出来なの」
 「そうか、まだ若いから精進すれば世界1のピアニストになる可能性もある」
 「それは無いわ」
 「ちょっと励ましてやったんだ」
 「全然励ましになっていないわよ」
 「じゃ世界で1万人くらいの中には入ることも可能だろう」
 「それなら可能性があるのかな」
 「まあなんにしてもいい趣味だな」
 「小野田さんは何かやるの?」
 「楽器か?」
 「ええ」
 「ハーモニカも弾けない」
 「趣味は?」
 「CD聴いたり本を読んだりするが、趣味という程でもないな」
 「あら、本なんて何処にも無いじゃない」
 「家探ししたのか?」
 「家探しする程広い家じゃないでしょ」
 「図書館から借りて読むから、買ったことは無い」
 「どうして?」
 「その為に図書館というものはある」


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