亜紀-17
「そうか、それじゃ私が付いていって上げましょうか」
「君は本当に管長補佐の妹では無いんだろうな」
「ああそうだ、その話だった。で、何があったの?」
「明日の水曜日、君の為に僕が山に行くことにしたんだ。ところがそれを聞きつけた管長補佐が一緒に行くと言いだして、結局同行することになってしまった」
「一緒に行って何をするの?」
「さあな、あんな女の考えることは僕には分からん。あっと思った時には綺麗な下着を穿いてうちに上がり込んで来るんじゃないかな」
「それは私のことじゃないの」
「だからあれは君の姉さんなんじゃないのか?」
「ふーん、あの九の一も小野田さんに取り入ろうとしているのか」
「するとやはり君も、僕に取り入ろうとして取り入ったのか?」
「私は目的があってそうしたんだから純粋なのよ」
「目的って何だ」
「だから助けて貰うっていう目的」
「そういう目的があると不純というんでは無いのか、普通」
「あら、綺麗な下着穿いて来いと言う方が不純でしょ」
「それで実際穿いて来るのはもっと不純なんではないか」
「あらそれは純粋なんだわ」
「まあいい、それより九の一は良かったな。確かにあの色では山伏には見えんなあ。なるほどお笑いに出てくる九の一という感じだな」
「そうでしょ」
「あれを着たまま一緒に滝に打たれて上げるとはしゃいでいた」
「え? そんなこと言われてはしゃいだのは、小野田さんの方じゃないの?」
「馬鹿を言うな。世の中に女がたった1人しかいないとしても、あの女とだけは付き合いたくない」
「そんなに嫌っているの?」
「ああ、あれは狐のお化けか何かに違い無い」
「小野田さんが突然山に行くと言いだしたんで、警戒しているんじゃないかしら」
「まさか。僕は疑われる程馬鹿じゃないよ。しかし彼女が何故だ何故だと聞くんで、僕はちょっとしたことを思いついた」
「何?」
「うん、まあ最近パチンコでスラレてばかりだからと誤魔化しておいたんだが」
「小野田さんパチンコなんてやるの?」
「全くやらない。彼女がパチンコ狂なんでとっさに思いついてそう答えたんだ」
「思いついたってそんなこと?」
「いや、その時はとっさにそう答えたんだが、ひょっとして君のことを救えそうな妙案を思いついた」
「わあ、流石小野田さん」
「まだ何も言ってない」
「まだ何も聞いてない」
「喜ぶのは早い」
「で、どういう妙案?」
「うん、それがちょっと気が進まない」
「どうして?」
「どうしても」
「どんな妙案なの?」
「まだ発表の段階では無い」
「気取らないで教えてよ」
「うん・・・、君の担当指導教師を管長補佐に変更して貰おうと考えている」
「そうするとどうなるの?」
「通常とは違う扱いをしてもおかしくないことになる」
「つまり寄付しなくても済むということ?」
「その可能性がある」
「あの九の一が担当している信者というのもいるの?」
「いや、いない」
「それじゃどうして?」
「信者の扱いは一定の慣行に従って、いわばベルトコンベアに乗せられたように同じ処理をされるんだ。しかしあの九の一に担当させればそのベルトコンベアに乗せられないで済む」
「でもあの人の担当になったら余計多額の寄付をさせられそうじゃない」
「そこが妙案の妙案たる所以だ」
「何処が?」
「漫才じゃない」
「だってまだ良く分からないのよ、小野田さんの考えてることが」
「それはそうだ。まだ説明していない」