リ-1
ほんの少し、ポーっとしている間に
岡本主任は、会議室から自分の上着と荷物を持って出てきた。
会議室が施錠されているかをいつものように注意深く確認して
そのまま私の横まであっという間にたどり着く。
何も言わない私の代わりに
エレベーターの下降ボタンを押し、
じっと待つ間に私の手を握る。
このままエントランスを通るの?
ふと不安になってほんの少し手をよじると
「大丈夫」
と、何が大丈夫なんだか・・・
岡本主任はそんな言葉を優しく発した。
それでも、その言葉に騙されて
私の手はそのまま岡本主任の手のひらの中に納まった。
駅に向かう途中でタクシーを拾って
2人とも無言でそれに乗り込む。
岡本主任の部屋まで2人とも何も話さないで・・・
「俺、武田さんに叱られちゃうな」
たった一言、岡本主任が可笑しそうにそう呟いた。
マンションのエレベーターの中で
「お腹空いてる?」
と聞かれ、小さく首を振る。
私のその姿に苦笑いして
「後でデリバリーでも良い?」
申し訳なさそうにそう呟いた。
「うん」
それだけ言うのが精いっぱいで。