雪解けて-1
三月。北の大地を覆っていた雪が解け始めた。そこここから顔を出した土がひときわ黒く目に映る。その土に、いつ育ったものか、草は早くも鮮やかに黄色い花を咲かせていた。
森村の通う小学校は、明日が卒業式だった。とは言え、子供も教員も少な過ぎるこの町では、中学校はもはや独立して成り立たないのだった。廃校になったかつての中学校校舎は大き過ぎて使えず、隣町の中学校は通うのに遠過ぎた。そもそも、森村より上には、数年間、該当する学年がいなかったのである。だから、空き教室の多い小学校に森村とアナスタシヤはそのまま留まり、可能な授業はなるべくこれまでのクラスと一緒にすることになっていた。
特区へ来て半年にもならない森村は、何を卒業するのか分からない思いだったのだが、自分としては決めている事があった。内地の人間からの卒業である。
「ねえ、これ見て。卒業アルバム。」
アミーナが、持ってきた電子機器をアナスタシヤに見せた。
「何、これ! 気持ち悪い!」
「自分が送ったのに。ふふふ。」
卒業式前の土曜日、クラスの皆はアナスタシヤの家に集まって遊んでいた。それぞれ、全員が集まる事を親には話さず、忍んで集合したのだった。
特に何をするともなく、菓子や飲み物を持ち寄って、学校ではない場で気楽に集まるだけの企画だった。それがしかし、彼らには非常な解放感を感じさせるのだった。
アミーナが皆に見せたのは、「卒業アルバム」と題打った画面で、一人一人の名前と写真とが並んだものだったが、写っているのは顔ではなく、性器のみだった。しかも、女子のは溝の閉じたものと開いたものとが載せられている。肛門まではっきり写っていた。
「森村君だけやっぱり男子だね。」
ナターリヤがおかしな感想を漏らすとヴァレリヤは
「なんだか、男女で別の生き物みたい。海の生き物の図鑑だよ、これ。」
森村のものだけは、体の正面から写してあり、片方の写真では大きく勃起していた。
「顔に似てると思う?」
クセニヤは不安げに、誰にともなく尋ねたが、その言葉に、アグラーヤは思うところがあった。確かに一人、形が違うように見えた。
「クセニヤはあれがちょっと大人なんじゃない?」
そうアグラーヤは気遣いの返事をした。
「見てるだけで臭ってきそうなんだけど。女子のってあたし初めて見た。森村のしか見たことない。どれもすごい変!」
アナスタシヤが口の辺りに手をやりながらそう言った。
「僕は誰のか名前なくても分かるな。当ててやろうか。」
「変態! それにしても、あんた、よくこんなもの舐められるよね。」
「でもアナスタシヤが一番させてるんでしょ? 森村クン、今からみんなの舐めてよ。卒業射精、好きなだけさせてあげるから。うふふ。」
言ってアミーナが森村に抱きついた。ナターリヤがたちまち森村のズボンを下ろしにかかり、パンツまで引き下げてしまった。