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剣だこ
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剣だこ〜試合前〜-1

剣道部に入部した。
美術部と迷っていたけど、友達に誘われていた事も重なり、入部を決めた。
一年生は基礎練から始まる。
走り込み・フットワーク・筋トレ…の繰り返し。
これじゃ陸上部と変わらないと友達も苦笑いしていた。
素振りもまだできない。
だから、剣道部に入った実感もない。
5月先輩たちの大会に応援に行く。
初めての会場は一種独特の匂いがした。
胴着と汗の雑ざった匂い。
各チーム準備をしている。
緊迫感が会場を包む。
みんな無言になる。
開会式も終わり、
9:15
先輩達の個人戦が始まる。
礼をして蹲踞。
立ち上がり構える。
空間が張り詰める。
一瞬だった。
先輩の剣先が相手の小手を捕えた。
一本!
続け様にもう一本。
一瞬で勝負は幕を降ろした。
刹那の中の緊迫感。
一撃。
爽快感。
心を奪われた。
強くなりたい。
試合に出たい。
汗ばんだ拳を握り締めて胸に誓った。
一年生の大会は8月末。
一年部員は14名。
個人戦、団体戦ともに上位10名に出場枠が与えられる。
初心者の私には高いハードルだった。

6月。
ようやく素振りに移れた。
思いの外重い。
鈍い風きり音がする。
扱えない悔しさと
前進している喜びを感じながら夢中でふり上げ
下ろす。

練習が終わって汗だくの顔に水道で水分を与える。
手に痛みを感じた。
手のひらに薄いマメができていた。
先輩が言うにはこれは
「剣だこ」といい剣士の証だと言う。
家に帰って絆創膏を貼った。
7月。
切り返しや打ち込みの練習をする。
あの試合の先輩の姿を思い出しながら踏み込む。
相手は竹刀だからパチんと軽快な音とともに打ち込んでは駆けてゆく。
例の剣だこは更に悪化して表面皮膚が摩擦で取れてしまった。
むき出しになる生々しい皮の中。
守るものを失い、痛みを感じた。
痛みでうまく竹刀が握れず、絆創膏の上にテーピングを施した。
痛みも若干和らぎ、繰り返し素振りをする。
剣だこは硬くなるという。
私のは自分の精神力を表すように薄っぺらで弱い。
練習が終わり、いつもの水道へ。
私はこの瞬間がたまらなく好きだ。
整わない息と汗と激しい鼓動と水分。
走者にランナーズハイがあるなら、これは……
剣道ハイだろう。
なんて思いながら心地よさと顔に流れる水の冷たさを感じる。
そして
いよいよ防具を着けて練習開始。
もう慣れてしまったあの匂いに包まれる。
防具一式を取り付けていよいよ面をかぶる。
手ぬぐいは昨日家で練習した甲斐あってスムーズに取り付けられた。


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