ケイと圭介の事情(序章)-1
「はぁ…」
なんでこんな事になったんだろ…。
冬の日差しが差し込む昼休みの教室。窓際の後ろの席で、女子生徒達がはしゃぎながら楽しげに会話をしてるのを見ながらあきらかに困惑してる顔で溜息をつく男子生徒。
「やっぱりいつ見ても素敵だよねぇ〜」
「同じ女の子とは思えないくらいスタイルいいよね。羨ましいな〜」
「でもでも、それだけじゃなくて雰囲気がいいよ。美人だしクールな感じが思わずお姉様〜って呼びたくなちゃうよね」
どうやら彼女達の話題は、ティーンズ向けのファッション誌の中のモデルの女性についてだった。
黄色い声が飛び交う中、溜息を付いてた男子生徒は「そりゃ、女の子じゃないしっ。スタイルを羨ましがられてもねぇ……」と心の中で突っ込みを入れつつ自分の机に突っ伏した。
何故、この男子生徒がそんな事を思うのかといえばそれなりに理由があるのだった。
彼女達が羨望の眼差しで見ているモデルの女の子は教室の後ろで脱力してる男子生徒「相沢圭介」本人だからである。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
脱力状態の圭介に聞き慣れた声の主が心配そうに近づいてきた。義妹の智香である。
「ん〜。智香かぁ、なんでもねぇよ。ちょっと人生の不条理について考えてただけだよ」
かったるそうに顔を上げ、不機嫌そうな発言をする圭介をちょっと不思議そうな表情で見つめる智香だったが、何か思いついたかのように、圭介の目の前に可愛らしい包みの弁当箱を突き出した。
「お腹が減ってるからイライラしてるんでしょ〜。智香がお兄ちゃんの忘れたお弁当を持ってきてあげたからね♪」
やたら上機嫌の智香から圭介は弁当箱を受け取ると、包みを解き弁当箱の蓋を開けた。
「別にイライラしてはないさ。腹は減ってるけどね。しっかし、相変わらずお前の作る弁当は……」
圭介が弁当の中身を見て言葉をなくしている。それもその筈、智香の作る弁当はその容姿と同様にとても可愛らしい(女の子らしい)おかずの内容だった。
「ん?どうかしたの?お兄ちゃん」
圭介の様子に疑問を感じた智香だったが、その答えを聞く前に智香は先程から楽しげに話している女子生徒達の一人が智香に気付き声をかけてきた。
「あっ!智香〜。こっちだよ〜!」
声の主は圭介のクラスメイトの香織だった。
ちなみに、智香は隣のクラスであるが、学園に入学した頃から智香と香織は仲が良くクラスの違う今でも昼食は一緒の時が多い。
「香織ちゃん、今行くね。じゃあね、お兄ちゃん」
智香は笑顔で圭介に軽く手を振ると香織達の集団に向かって歩いていった。圭介はそれを見送ると思わず赤面してしまいそうなくらい可愛らしい弁当を人目を避けるように食べ始めた。
「智香、見て見て。今回もケイが出てるよ。う〜ん、やっぱりこのスタイルのよさは羨ましいよね〜」
昼食のサンドウィッチを食べながら、雑誌を見てる香織が隣に座っている智香に同意を求めるように話しかける。
「そ、そうだねぇ〜。羨ましいよねぇ…」
少し困ったような笑顔で答える智香は心中複雑だった。当然だが、義妹である智香はケイの正体が圭介だという事はすでに知っているので「ケイの正体が実はお兄ちゃんだなんてバレたらみんなどんな顔するんだろう…」なんて事を考えながら智香は先程から圭介が不機嫌だった理由がこの事だと確信をして心の中で同情した。
そんな智香の思惑を他所に香織達はやはり先程と同じように雑誌の話題を中心に会話の花を咲かせている。
「そういえば、智香ちゃんの従姉妹のお姉さんって確かこの雑誌の編集者だったよね?」
一緒に昼食を食べている友人の一人である香奈子が不意にそんな事を言ってきたので、他の事を考えてた智香は思わず間抜けな返事をしてしまいその様子を見ていた香織が笑い出していた。