Future's CHOCOLATE-3
「コノーっ、お勉強の時間ですよぉ」
教科書やら問題集やらがいっぱい詰まっているカバンを持った哲希がアタシの隣に座る。
「うん、その前に…ちょっと話したいことがあるんだけど…」
「ん?何だぁ?」
哲希はカバンの中から、歴史の問題集を引っ張り出した。
「その…アタシ…哲希と同じ学校には…行けない」
問題集をめくっていた手が止まった。
「…え?」
悲しそうな瞳がアタシを見つめる。心臓に針が刺さったみたいにキュウッと痛んだ。
「アタシ、小さい頃からの夢があって…それを叶えるにはこっちの高校に行った方がいろんなこと、学べるの」
アタシは机の中に入れておいたその高校のパンフを取り出した。そして、あるページを開いて哲希の前に置いた。
「この高校に行きたい」
そのページには幼稚園ぐらいの子と体育着を着た生徒が手を繋いでいる写真が載っていた。
「アタシね…保育士になりたいんだ。小さい頃からずっと夢だった…」
「実はアタシお父さんいないの。アタシが生まれてすぐ、事故で死んじゃった…。だからお母さんは、必死で働いてた。朝から晩まで人よりいっぱい働いて…。もちろんアタシは最後まで保育園に残ってた。友達はみんなお母さんが迎え来て、手を繋いで帰るの。だけど、アタシ寂しくなかった。先生はアタシが一人になると、お菓子とかジュースとか出してくれて、二人でお絵描きして…逆に楽しかった。優しくてとっても大きく感じられた…」
哲希は何も言わないでアタシの話しを聞いてくれている。
「大きくなったら先生になりたい、寂しさを感じさせないくらい優しい人になりたいって、ずっと思ってたし夢でもあるの」
「この学校、年に二回、職場体験があって幼稚園とか保育園とか行けるみたい。アタシ行ってみたい。どんなところなのか体験してみたい…」
「うん…」
哲希はカチカチとシャーペンをノックして芯を出した。
「だから…アタシは哲希と同じ学校には行かない。約束したのに、ごめん…」
アタシは頭を下げた。
「…何だ、そんなことか…」
「え?」
頭を上げると哲希は問題集を解いていた。
「コノと離れるのは寂しいけど、俺はずっとコノを好きでいれる自信がある。前に言ったじゃん。ホラ、コノがクラス替えヤダーつって暴れた時…」
アタシが暴れた時?…あ、アタシがどさくさに紛れて哲希に告白した時か…!
「クラス替わっても俺たちは変わらない、我がクラスは永久不滅って。これ、まんまコノにも言えるよ」
哲希は問題集から目を離してアタシを見つめた。
「高校が離れても心は離れない。俺たちは永久不滅だっ!」
哲希の笑顔はすごく優しかった。哲希を好きになって本当に良かった…。
「ところでさ、何だこれ?」
「どれ?」
アタシは問題集を覗き込む。
「あぁ、それは確か…んー…あーっ!!ド忘れしたっ」