秘密の四角関係(5)-1
その日は朝からすごい雨だった。梅雨がラストスパートに入ったかのように、雨風が激しく窓を叩きつけている。
友香は、目覚めてから一時間ほど机に向かって頬杖を付いていた。
大雨洪水、暴風警報が発令され、学校は規定により休みになっている。
しかし、友香の顔は浮かない。
心も体も、何かを欲している。
ムシムシした湿気も、肌から滲み出る汗も気にならないくらいに、友香はただ静かに座っていた。
別に珍しいことではない。ここ最近、友香はずっとこの調子だ。
そしてこの様な状態の時、決まって頭の中に悠也か有美がいる。
友香は気づいていた。これは恋なんだと。
悠也の事を考えるのは、つまり彼が好きだから。そして有美の事を思うのは、ライバル心か、もしくは………嫉妬。
有美はとても女の子らしい。
心が純白で、顔もどちらかというと可愛い。雰囲気は「大人っぽさ」を醸し出している。物静かなのに加え、トゲがない。
友香が勝っていることと言えば胸の大きさくらいだろう、と、友香自身は思っていた。
それでも友香は、有美よりも自分を見てほしいと思っていた。
十六年生きてきた中で、初めての恋だったからだ。
──私…
友香は何かを決心して立ち上がると、開け放ったドアもそのままに玄関へ駆けだしていた。
<ピンポーン>
雨音が包み込む家の中に、突如インターホンが鳴り響いた。
リビングでコーヒーを飲んでいた悠也は、立ち上がって玄関へ向かう。
「私が行きますよ?」
「いいよ。俺がいくから、美穂ねぇは続きをやってて」
「すみません」
美穂が皿洗いを再開するのを確認すると、悠也はリビングを出て行った。
「友香っ?!」
悠也が扉を開けると、そこにはずぶ濡れになった友香が一人、ポツンと立っていた。
「何やってんだ?!」
「いや、その、…近くまで来たもんだから…ははは…」
「近くまでって…まぁ取りあえず入れ」
悠也は友香の手を引いて、中へ入れた。
「傘は?」
「飛ばされちゃった」
友香は肌にくっついた服を引っ張りながら、笑っていた。
「で…何で制服なんだよ」
「いや〜、学校行ったら閉まっててさぁ、雨が弱くなるまで居させてもらおうと思って」
嘘だ。
友香が制服なのは、着替えてから警報が出ているのを知ったからだ。そしてずぶ濡れなのは、友香の家から悠也の所まで、一駅分走ってきたからだった。
「天気予報くらい見ろよ…」
悠也は苦笑いをしながら、目を逸らした。
濡れた制服は何度引っ張っても肌に張り付き、友香のブラジャーが丸見え状態だったのだ。
「そうだな…濡れたままだと冷えるから、シャワーでも浴びて来いよ」
「うん……」
友香も目を逸らし、コクリと頷いた。