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悠子
【その他 官能小説】

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悠子-5

 「事情って何ですか?」
 「当時僕は埼玉県の三郷市という所にある小さな会社で働いていたんだけど、そこにはバングラデシュ人の男が何人か働いていてね。僕はそのうちの1人と仲良くなったんだ。それでそいつが女を買いたいけど、ソープランドは外人お断り、ピンクサロンも駄目、だからリトル・バンコクまで行って女を買いたい。だけど電車を乗り継ぎ乗り継ぎして何時間もかかるから、怖いから一緒に行ってくれと言うんだ」
 「何が怖いんですか?」
 「入管とか警察が怖いんだよ。彼らはビザを持っていないから職務質問されたりするのを極端に怖がるんだ。ところが、日本人と一緒だと警官は見ても何も言わないというんだな。日本人の監督下にあるんなら不法滞在でもいいやっていうことなのかな、分からないけど彼がそう言うんだ」
 「それでリトル・バンコクに行って女を買ったんですか?」
 「ああ、一緒に店に入ったからね。店に入った以上は女を買わない訳には行かないんだ。別に買わなくてもいいんだが、そうすると飲み代としてべらぼうな金額を請求されて、却って女を買う方が安いんだよ」
 「それでタイ人とやったんですか?」
 「あのね。タイ人だって人間だよ」
 「やったんですね」
 「はい。やりました」
 「それでそのタイ人と結婚しようと思ったんですか?」
 「まあ、それからいろいろあって、一時そういう気になったことがあるという話し」
 「いろいろって何ですか?」
 「それは秘密。別に隠すようなことでも無いけど何だか尋問されてるみたいで話す気になれない」
 「尋問なんてそんなあ。単に聞いてるだけなのに」
 「まあいい。要するに売春も仕事だし、売春していたからその女が汚れているということは無いっていう話しさ」
 「分かりました」
 「それで僕の店で働くというのはどうなった。気が変わったか?」
 「いいえ、全然」
 「給料は高く無いよ。1時間1000円だ。忙しかった日は多少色を付けるけど」
 「時間は何時から何時ですか」
 「7時から3時。まあ、都合が悪ければ1時くらいまででもいいけど」
 「お店は3時になったらピタリと閉めるんですか?」
 「いや。お客がいれば何時までだってやるよ。朝の9時までやったこともある。だけど君は3時に帰っていいよ」
 「いえ、何時まででも働きます」
 「どうして? 金を稼ぎたいの?」
 「はい」
 「それならもっと大きい店に行けばもっと稼げるんじゃないのか」
 「そんなことありません。1時間1000円ならそんなに悪い方じゃないですよ。大きい店は閉店時間をずらすことなんて無いし」
 「そうか。それでいいなら今晩でも明日でも、君の都合のいい時から働いてくれ」
 「今晩から働きます」
 「ところでまだ君の名前を聞いていなかった」
 「悠子です」
 「ゆうこ? どういう字を書くの?」
 「悠然としてるの悠ですけど分かりますか?」
 「下に心が付く字かい?」
 「あっ、そうです。良く分かりましたね。悠然の悠だって言って一発で分かる人なんていないんですよ」
 「そうだな。難しい字だな」
 「古くさくて変な名前でしょ?」
 「そんなことは無い。とてもいい名前だよ。だけどちょっと厭らしい感じがするな」
 「厭らしい? どうして?」
 「だって下に心があるから」
 「え?」
 「一発で分かってくれないかな。下心があるって言ったんだ」
 「あー、なるほどねぇ。そんなこと言われたの初めて」
 「家は近いのかい? 此処から」
 「ええ、金宝町だからすぐそこです」
 「なるほど。僕の家の前を通って帰ることになる訳だな」
 「はい」
 「それじゃ7時だからね」
 「はい」


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