悠子-23
「マスターもポルノは好きなんですか？」
「ポルノが嫌いになるほど枯れて無いよ」
「今度私とポルノ・ビデオ見ませんか？」
「何で？ 君もそういうの見るの好きなの？」
「特別好きっていう程じゃないけど、うちに沢山あるんですよ」
「何で？ 君が買ったの？」
「まさか」
「それじゃ何で？ 天から降ってきた訳じゃ無いだろ」
「付き合ってた男が置いていったんです。それ見ながらいつもセックスしてたんです」
「ほーう。そういうのはしたこと無いな。考えたことも無かったけど、いいのかな。何か気が散りそうな気がするけど」
「ええ。気が散って面白く無いですよ。でもそいつはそういうやり方が気に入ってたみたい」
「ふーん。しかしそんなの見ながらやられたらちょっと不愉快な気分にならないか？ 何か君の体使ってオナニーしてるのと同じじゃないかって」
「そうですよ。その通りです。とっても不愉快だった。マスターはプリンス・メロンみたいなおっぱいがいいなんて変なことを言うけれども、セックスに関してはまともな神経してんですね」
「いや、僕は変態だよ。何しろプリンスメロンが好きで君のおっぱいを小さいなんて言ったんだから」
「あっ、私が言ったこと憶えてる。気に障ったんですね、やっぱり」
「いや、いいけど」
「ご免なさい。私って馬鹿だから」
「いや、別にそんなに言う程のことじゃないよ」
「あの時はまだマスターの素晴らしさに気付いていなかったから」
「別に僕は素晴らしくは無いさ」
「いいえ。最初は変なことばっかり言う人だなって思ったけど、段々優しくて誠実な人なんだなあって分かって来ました」
「おい、よせよ。優しくて誠実な人っていうのは今の皇后が天皇と婚約した時に言った言葉なんだぜ。お優しくて御誠実なお方ですって」
「へえー、それは知らなかった」
「それはそうだ。君なんかまだ生まれる前の話だ。でも当時それが流行ってね。お優しくて御誠実な方という言い方が」
「そうなんですか。皇族なんて言っても私達とおんなじなんですね」
「そうだな」
「でもマスターは本当にお優しくて御誠実なんですもん」
「そういうのはな、僕が酔っぱらった君を介抱してやった時に言うもんなんだぜ。あの時君は何と言ったと思う？ 『何かしましたかー、いえ、別に何してもいいんですけどー』ってそう言ったんだぜ」
「ご免なさい。あの時私男に振られたばかりで荒れてたから」
「そうだろうな。そんなことだろうと思ってた」
「マスターはあの時もそれからその後も何であんなに私が飲んだのか一言も聞こうとしなかったんですよね。どういう人なんだろうって私最初はちょっと不審に思ってた」
「そういうの聞かないと不審なのか？」
「そうですよ。普通の人は興味津々で聞いたりするもんですよ。マスターは『俺はお前なんかに興味は無いぞ』ってクールを装ってるのかと思って最初は厭な奴だと思ったりしたんです。でもその内そういう所がマスターの優しさなんだなって分かってきたんです」
「そうだろ。厭なことは聞かないっていうのが僕の主義なんだ。言いたければ自分から言うんだからって」
「ええ。それが最初は分からなかったの」
「何か少しはまともになったみたいだな。酔いが覚めてきたのかな」
「最初から酔ってなんかいません。あっ、アップル・ジュース忘れてた。もう出来てますよ、きっと」
「おっ、そうだな」
「あれぇー、全然駄目だ」
「コーヒーと違うから目が詰まっちゃうんだな」
「ほんの少しだけ出来てるから飲みますか？」
「僕が飲む為に買って来たんじゃないよ」
「私はだから、こっちの濁ったのを飲むから、マスターはこれを、少しだけど」
「ああ、それじゃ折角作ってくれたんだから飲もうか」
「やっぱり甘い物っておいしいですね」
「うん。飲んだ後は不味くてもジュース、それを忘れたら駄目だよ」
「ハイ」
「さて、そろそろお客さんが来る頃で、回復してくれて良かった」
「あ、もうそんな時間ですね」