悠子-13
「大きいのが好きなの?」
「まあね、男だから」
「厭だ。男だって大きい胸なんて気持ち悪いっていう人いくらでもいるわ」
「そうか? それは君の歓心を買いたくてそう言うんだろう」
「馬鹿あー。胸が大きすぎて気持ち悪いって言われたのはこの私よ」
「えー、それがかぁ。嘘だろう、それは」
「嘘じゃない」
「そうかな。僕は、服を脱がしたらブラジャーしてなかったんで、ああ小さいから必要無いんだなって思ったよ」
「マスターは変態だ」
「何だよそれは」
「私の胸見て小さいだの、プリンスメロンがいいだの言うのは変態よ」
「いや、別に非難している訳じゃないんだから怒るなよ。ただ事実を指摘しただけなんだ。気に障ったんなら謝る」
「気に障ったわ。私のこと胸が大きすぎて気持ち悪いって言った男にマスターを会わせてやりたい」
「そいつはきっとホモなんだ」
「違うわ」
「それじゃきっとおちょぼ口なんだ」
「何それ?」
「だから、おちょぼ口」
「おちょぼ口って何?」
「こんな感じの小っちゃい口」
「それが胸とどういう関係があるの?」
「だから口が小さいから君のおっぱいが口に入りきらなくてイライラしたんだろ」
「・・・・」
「そういう奴もいるんだな。世の中は広いから」
「私今呆気にとられて言葉が出なかった」
「物事の真実に気付くと余りにも単純なことなんで驚くんだよ。そういうことは良くある」
「あのぉ、ふざけているんじゃ無いわよね?」
「ふざけてるって?」
「おっぱいは口に入れるもんだ、だから口が小さいと大きいおっぱいが気持ち悪いんだっていう論法よ」
「論法と来たか」
「あのね、私黙っていたけど『ボンソワール』に移る前は『かきくけこ』ってピンサロで働いていたのよ」
「ああ、そんなことだろうと思ってた。あの時の言い方がそんな感じだったもんな」
「それで私知っているんだけど、マスターみたいに女の胸に興味がある男なんて半分もいないわよ。大体夢中になってあそこは触るけど、胸に吸い付く男なんてあんまりいないわ。せいぜい手で揉むくらいよ」
「ああいう所には真っ当な趣味の男は余り行かないんだろう。ピンサロの経験で世の中の男全体を推測してはいけない」
「何言ってるの。ピンサロの経験なんて無くても、プリンスメロンがいいなんていうのはおかしい。絶対おかしい。そんなの処女だって分かる」
「まあ、世の中にはいろんな男がいるっていうことだな」
「そうよ。マスターが凄く変わった男だっていうこと認めるのね」
「え? それはまあ、君が興奮するといけないからそういうことにしておいてもいい」
「何がぁ。呆れて口も利けない」
「さてもう今日は閉めて帰ろうか。給料日前だから客は来ないだろう」
「劣勢になると直ぐそれなんだから」
「劣勢になるとって、僕達別に論戦を戦わせている訳じゃないだろ」
「論戦よ。私の胸が小さいなんて言ったら論戦しか無いわ」
「だから悪かった。君の胸は大きい。十分に大きい。これでいいだろ」
「何よそれは。私子供じゃないのよ。よしよし分かった、いい子だねなんて言ったって駄目よ」
「困ったな。ほら、あの時君は寝ていたろう。だから胸がたまたま小さく見えたんだな、そうやって立ってるとやっぱり君の胸は大きいよ。認識を新たにした」
「何が認識を新たにしたよ、難しい言い方したって誤魔化されないわ」
「あのさあ。もう勘弁してくれよ。どう言えばいいんだ」
「まあいいわ。今日の所は許しておいて上げる」
それから光太の店ではプリンス・メロンの話が大流行となった。来る客来る客みんなに悠子がその話をするからである。そっと近づいて悠子の脚を蹴ったりしたが、悠子は平気の平座である。あらっ、何か今脚にぶつかったけどマスターですかあ?などとわざとらしく言う。光太はプリンス・メロンを口に咥えていないと満足しない男というレッテルを貼られてしまった。