悠子-12
「奥さんはタクシーで帰ればいいんじゃないの?」
「田舎だからタクシーは呼ばなきゃ来ないし、毎日そんな金使ったら大変だろう? 僕のうちから店までは駅までより遠かったから多分6キロくらいあったんじゃないかな、店まで」
「それでタイ人とはその後どうしたの?」
「事情があって僕は会社を辞めて横浜の会社に転職したんだ。だから引っ越ししなきゃいけないし、引っ越しするということは電話で伝えてどうやら理解したみたいだったけど、それっきりさ。新宿に来てくれと頻りに言っていたけどそんな暇なんか無いからね。引っ越しと同時に彼女とは縁が切れた」
「だって電話は?」
「引っ越せば電話番号も変わるじゃないか」
「新しい番号を教えるサービスがあるじゃない。この電話は何番に替わりましたっていうやつ」
「あ、それは駄目なんだ。借家って言ったけど会社の寮なんだ。会社が借りて僕が大家さんに直接家賃を払うっていう変な関係だったんだ。電話は会社の使っていない奴を移転してくれて電話代を僕が払っていた。だからそういうサービスとは関係無いんだ」
「そうかぁ。彼女は今どうしているの?」
「だから引っ越ししてから後のことは全く分からない。今でも日本にいるのか帰ったのか」
「ふーん。どんな人だった?」
「どんなって・・・、おっぱいのドデカイ人だった」
「あのねえ。どんな人だったって聞いて普通そんな答え方する?」
「え? どう答えればいいんだ」
「日本人じゃ無いんだから、こんな風に変わっていたとか」
「ああ。辛い物が好きだった。ラーメンを作ってやったら唐辛子を1瓶の半分入れて食べた。あれにはビックリしたね」
「1瓶の半分も入れたら唐辛子だらけになっちゃうじゃないの」
「そうさ。ラーメンのスープなんか見えないんだ。唐辛子が分厚く浮いてるんだから」
「そんな辛い物が好きだったの?」
「ああ、一緒に有楽町のタイ・レストランに行ったことがあったけど、タイ料理は辛い。彼女は、これは日本人向けにしてあるから全然辛くなくて美味くないって言っていた。でも僕は辛くて食えなかったんだよ」
「へーえ。他には? 他にはどんな人だった」
「ケツがデカかったけどそういうことじゃないよな、聞いてるのは」
「体のことはいいの。性格は?」
「瞬間湯沸かし・瞬間冷却器だったな」
「何それ?」
「ちょっとしたことで突然激しく怒るんだ。それで僕が呆気にとられているともう怒りが収まっていて、その素早さに僕はもう1度呆気に取られる」
「怒って何かするの?」
「何もしないよ。憤然と席を立って台所に行っちゃうんだ。それで直ぐ又戻ってくるから何か取りに行ったのかなと思っていると単に怒りが収まったから戻ってきただけなんだよ。もう全然怒っていないんだ、戻った時には」
「へえ、それは変わっているわね。タイ人ってそんな風なの?」
「分からない。何しろ知ってるタイ人は彼女だけだから」
「ふーん。で、ドデカイおっぱいが気に入っていたのね」
「それはそうだ」
「どれくらい大きかったの?」
「これくらい」
「分からない、それじゃ」
「そうだな、プリンスメロンのちょっと大きめっていう感じかな」
「えーっ、それはドデカイなんてもんじゃないわよ」
「うん。ウルトラ・ドデカパイだな」
「気持ち悪い」
「別に。自分が小さいからってそんな風に言うことないさ」
「んまあー。私Cカップなのよ。生理の前なんてDカップだってきついくらい大きくなるのよ。胸が小さいなんて生まれて初めて言われた」
「まあまあ。怒るなよ。何事も上には上がいるっていうことさ」
「呆れた。プリンス・メロンに比べたらそりゃ小さいわよ。そんなのおっぱいじゃ無いわ」
「それじゃあれはオケツだったのかな。でもちゃんと乳首はあったよ」
「そんな大きいのの何処がいいの?」
「だから大きい所」