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『BLUE 青の季節』
【青春 恋愛小説】

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『BLUE 青の季節』-22

「俺も、そう思う」

断言した彼の声は今までに見せたことのないような真剣味を帯びていた。

「事情は知ってるよ。俺は顧問だからな。でも、理由を付けて部活にでているお前をこれ以上泳がせる訳にはいかない」

「先生に、俺を止める権利はないです」

キッと睨み返すと、信はいった。自分は間違っちゃいないと信じていたかった。それを否定する木本に嫌悪感さえ覚えた。

「あるよ」

吸い込んだ煙を全て宙に吐き出してから、はっきりと木本は言った。

「顧問だからな」




――痛いところを突かれたなあ・・・・

と信は思った。いらただしさと何ともいえないむなしさが半々で、一人になった室内プールは冷たい空気だけが残っているようだ。
気が付くと、足元から太ももにかけてじんわりと汗をかいている。この暑さで?いや、たぶん・・・。焦っていたからだ。こんなに見透かされているなんて思わなかったから。

――俺は、遥を理由にしていたんだろうか。

なにもかも全部、彼女のせいにして。遥の「彼氏」だったばかりに、自分だけが苦しんでいると思い込んで。偽物の優しさを振りかざして、自分を誇らしくしていたかっただけなんじゃないのか。
強い男を、演じていたかっただけなんじゃないのか。

「・・・なんて、ヤローだ・・・・・」

声にならないほどの小さな呟き。きっと誰の耳にも届かないだろう。
ここには一人しかいないのだから・・・・


「感心だな」

聞き覚えのある声だった。信は相手を見ようとはしない。今の歪んだ自分は正直見られたくなかった。

「隣、座るぜ」

返事をする前に2レーンの飛び込み台の上に腰を下ろされた。タイルはまだ濡れていたが気にしていないらしい。

「ホント、最近のお前には頭が下がるよ。こんなに練習熱心な奴見たことないね、俺は」

「・・・・・・」

「来週の大会もこの調子で頼むぜ!エース」

満面の笑みを浮かべて肩を叩かれた。その重みを払いのけるように信はフッと笑う。作り笑いだったけど。

「嘘つけ。前の俺のほうが良かったんだろ?」

それまでなんでもないような顔をしていた男の表情が、変わった。

「まあ、な。俺、信の泳ぎ方好きだったもん」

「俺の?」

「そ。速くはないんだけど、ゆったりと伸びた綺麗なフォーム。まるで、何にも捉われない魚のような。
自由なクロール。始めてみたとき、スゲーなって素直に思えて、気付いたら声をかけてた」

と言って、興奮気味に無邪気に話すタケルを見てると、本当にコイツは水泳が好きなんだなって気がして。ショックだった。


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