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『BLUE 青の季節』
【青春 恋愛小説】

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『BLUE 青の季節』-21

だけど・・・・

「先輩が、羨ましいな」

去りぎわにポツリと言った彼女の言葉を、信は忘れることができなかった。



「真島、ちょっといいか?」

定期のメニューを終え、ゆっくりとプールから上がろうとした信に顧問の木本が声をかけてきた。

「きもっちゃん?」

ゴーグルを外すと、幾分穏やかな目つきの木本が信を見ていた。
今年赴任してきたばかりの新任教員はまだ若く、友達のように接してくれるので生徒達からはかなり人気があった。信もそんな彼に親しみをこめて愛称で呼んでいる。

「話があるんだ。座れよ」

「えっ・・・と、着替えてきてからでいいよな」

「まぁ座れ、なっ?」

半ば無理矢理に信を座らせる。布地が少ないので当然床が冷たい。
怪訝な目線を向けて木本を見る。

「またタイムがあがってるみたいじゃないか。どうしたんだ、お前。どんな心境の変化だ?」

嬉しい悲鳴というよりは、むしろ心配しているといった感じで木本はいった。

「いやー、別に・・・」

困ったように信は笑った。

「それとも、なんか良いことでもあったか?」

「悪いことならたくさんあるんすけどね」

吐き出すように信がいったところで木本の顔つきが変わった。口に手を当ててしまった、というジェスチャーに思わず苦笑してしまう。

「すまん・・・、気に障ったろ?」

信は首を振る。

「いえ、大丈夫っすよ。きもっちゃんの所為じゃないし・・・。それに心配してくれてるんでしょ、俺のこと?そういうの嬉しいよ」

少し間を置いて、木本が頷いた。だけどまだ目つきは険しいままだ。

「うーん・・・」

と唸る木本。

「信。お前、泳いでて楽しいか?」

え?
信は思っても見なかった質問に戸惑った。

「なんでそんなこと聞くんスか?」

返した声は明らかに震えていた。考えてもいなかったことだから。

「水原が言ってたぞ。最近のアイツはおかしいって。タイムもあがったし、サボる回数も減ったけど、それでも前のほうがよかった。前の泳ぎ方が好きだったんだ、ってさ」

そう言って木本はしけったタバコに火を点けた。学校内は全面的に禁煙だったはずだけど、お構いなしだ。


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