『BLUE 青の季節』-20
空気銃を持った役員がスッと耳を押さえ構えた。
自然、力が入る。
「ドンッ!!」
夏の空に一発の銃声が響き渡った。それを待っていたかのように信は飛んだ。
誰よりも早く。
誰よりも速く。
無我夢中で水の中を掻き分けていった・・・。
※
「スゴいね、これで何連勝?」
病室のベッドの上で遥がはしゃいだような声をだした。時折、笑顔につられてこぼす白い歯と肌の色が段々近づいてきてる気がする。
「4連勝だよ」
横にいたタケルが代わりに言った。
「あと一回勝てば、俺も信もインターハイだ」
意気揚揚と気合いを入れるタケルを後ろから美津子がこづいた。
「バカ。アンタの話をしてんじゃないの」
「自分は負けたからってひがむなよ」
ゴツ、と再び鉄拳が入る。近ごろの美津子にこの言葉は禁句だ。
「でも、よかった。私がいなくてもちゃんと練習してるみたいで・・・」
と遥がホッとしたような声を洩らした。
「いや、ホントこいつにしては珍しく真面目にやってるよなあ。感心、感心」
「同感」
「うるせー!お前ら」
信がいうと、二人は目を見合わせてケラケラと笑っている。この二人をみてると仲が良いんだか悪いんだか判断がつかない。
「騒いでんなら、帰れ。どうしても来たいっていうから連れてきてやったのに」
「なによ。アンタだってここに来る前から随分騒いでたでしょうが」
美津子がそう指摘すると信は何もいえなくなった。レースの結果を早く遥に伝えたくて、でも電話じゃ言いたくないから、学校にいる間はずっとその事ばかり考えていた。
・・・遥は日に日に弱ってる。それは多分、誰が見てもそう思うくらいに。やつれていた。悲しいほど、寂しい顔で笑う事が多くなった。
でも、遥の心まで弱らせるわけにはいかない。
たとえそれが自分で勝ち取った賞状じゃなくても。首から下げる資格がないメダルも。
信が勝てばきっと遥も喜んでくれる。自惚れじゃない。絶対そうだ。
突き付けられたこの現実に立ち向かうには遥は笑うしかないんだ。
生きることは、たぶん笑うことなんだ。
その笑顔を、守ってやれる方法は一つしかないから。他に出来る事なんかないから。