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『BLUE 青の季節』
【青春 恋愛小説】

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『BLUE 青の季節』-13




サイレンが鳴り響く救急車のなかで、信は無表情だった。舗装の悪い田舎道を走るたび、ベッドに横たわる遥の体は揺れた。まるで、本当に震えてるみたいに。結局、水泳部で付き添ったのは信と美津子と、顧問の木本だった。半分金縛り状態にあってた信を無理矢理乗せたのは部長のタケルで、木本も後のことは全て彼に任せた。

病院に向かう車内は静かで誰も話すことはしなかった。たぶん、声にだしてしまうときっと消えてしまう何かを信も美津子も恐れていたのかもしれない。

ほどなくして病院に着くと寝台に寝かされた遥が色んな機器と人に囲まれて行ってしまった。慌ただしく目まぐるしく変わっていく状況をただ見ているしか出来なかったのは、まだうまく気持ちを整理できてないからだと思った。

「信」

美津子が隣でうつむき加減に呟いた。こちらをキッとにらんで

パン!

なぐられた。
一瞬、なにがなんだかわからず美津子を見かえす。そしてゆっくりと口を開いた。

「・・・いてーよ」

頬がズキズキと音を立てて痛んだ。そういえば、こいつに殴れたのは初めてかもしれない。美津子とは小学校からの付き合いだが口以外の喧嘩なんてしたことなかった。

「痛い?そりゃ痛いよね、叩いたんだもん。当たり前よね」

美津子は目に涙をためていた。腫れた瞳で信をにらみ続けていた。いつもより、きつく。

「でもね、遥はもっと痛いはずよ。苦しいはずよ。
あのコ、すぐに我慢するから。だからアンタがしっかりと見てやんなきゃでしょ?
なにを見てたの。
アンタ・・・・遥の彼氏でしょ・・・!?」

「わりぃ・・・」

と信はいった。

「バカ・・・。謝る相手が違うのよ」

「わりぃ」

そうやって信は何回も何回も謝りつづけた。美津子はもう一度、「・・・バカ」と呟くとひとりでに泣きはじめる。声を枯らすまで泣きつづけた。



「血液のガン・・・って、分かる?」

目を覚ました遥からそう告げられた。「あの日」から三日が過ぎていた。遥は相変わらず陽気で、元気そうでとても病気だなんて思えなかった。

「私、それなんだ」

「へえ・・・」

突然の宣告にもなぜか驚くことが出来ず、ただ呆然と彼女の言葉を受け入れていた。その時はまだ事態を楽観しすぎていたのかもしれない。

「それって、治るんかな?」

と信はなんでもない風に聞いた。たぶん、バカみたいにまぬけな顔をしていた。

・・・・・遥が、首を縦に振ることはなかった。

「ごめんね。わからないんだ」

と言って今までと同じように泣きそうな笑顔で、言った。

知っていたのだと思う。病気のこと。自分の体のこと。このまま泳ぎ続ければ、どうなってしまうのかも。識りながら、遥は無理していた。苦しんで、自分を痛め付けても、ただがむしゃらに泳いだ。

そういう子だった。信は気付けなかった。美津子は気付いていた。止められなかった。
・・・ただ、それだけのことだった。


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