『BLUE 青の季節』-10
「ここはね、私の特等席なんです」
宮前は星空を見上げて言った。夜風に吹かれた彼女の髪が音もなく流れた。
「小さい頃、よくお婆ちゃんの家に遊びに来てね・・・・・・夜になったら此処にくるんだ。悲しいことや辛いことがあっても、ここに座って街を眺めてたら悩みなんて吹っ飛んじゃう、っていう私のとっておきの場所」
「ふうん・・・」
「毎年の様にここで見た花火を、いつか好きな人と一緒にみたかったんだ」
信は宮前を見た。宮前は真っすぐに夜空をみて横顔しかわからなかった。
「俺でよければ、付き合うけど?」
宮前は驚いてこちらを見やると、にっこりと笑った。そして目を閉じた。
軽い、キスだった。
大きな音がして目を開けると、花火はすでに始まっていた。
「きれいだね」
宮前が頬を赤く映えさせながら言った。信は花火を見上げながら、時折彼女の瞳のなかできらめく七色の光を見つめていた。
吸い込まれそうな夜空に消えていく打ち上げ花火を、ずっと見ていたかった。
第2章
最期の日々
冬が、終わりを告げようとしていた。
身を切るような十二月の空っ風も、路面に積み上げられた一月の残雪も、ようやく顔を出しはじめた二月の新芽も、皆春の訪れを感じて去ってしまった。
――また眠くなる時期がやってきた・・・・・
と、去年までの自分なら思ったかもしれない。
だが、違った。今の信には目標がある。
彼女と一緒に、インターハイにいく。
言っても、信にとってインターハイなど別にどうでもよかったが、彼女と同じ目標を持って同じ道を進んでいきたいと思ったから。
だから信は今までの倍、練習した。
放課後、一人残って泳ぎ続けてる自分の姿を見て、少し可笑しくなった。
たぶん、彼女に会わなければここでこんなことしてる自分なんて想像がつかない。タケルに言ったら「動機が不純だ」って怒られるだろうけど。
・・・それでも信は泳ぎ続けた。続けていこうと決めた。
※
「・・・・遥?」
水面から浮かび上がってきたのは、やはり遥だった。
定期練習を終えた信はいつものように居残ろうと屋内プールに顔を出したところだった。
「せんぱい?」
遥がこっちに気付いて手を振った。近づいてプールサイドに腰を下ろすと遥も泳ぐ手を止めた。
「居残りか?そんなに頑張って熱心だな、おまえ」
「先輩も、でしょ。同じだよ」
遥が少し腰を引いて笑った。