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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第3章 そのチョコを食べ終わる頃には』-12



「つまり……」
 遼はテーブルの上で指を組み、利恵を見た。
「先生はその沖田さんに本気になりかけていた、ということなんですね?」
 利恵は小さなため息をついて頷いた。
「身体の疼きを解消してくれるためだけの相手だと思っていたけど、甘かった。ああやって何度も肌を合わせていれば情も移るってことはわかってたことなのにね。想定外……いや想像以上だった……」
「僕も……そうだった」
 利恵はうつむいていた顔を上げた。
「高一の時先生に何度も抱かれるうちに、恋愛感情がどんどん膨らんでいきましたから」
「秋月くん……」
「先生とお別れする時には、もうこの人を離したくない、っていう気持ちになってたんですよ、本気で」
 遼はウィンクをしてみせた。
「そうなんだね……罪作りなこと、しちゃったね、私」
「身の程知らずでしたね、高一の分際で」遼は照れ笑いをした。「でも、それから物理的に離れてしまうと、日に日に先生のことは過去の思い出になっていったのも事実。先生が仰った通り、あの大人のチョコレートのお陰で不思議とすっと想いが消えていきました」
「あのシンチョコのブランデー・チョコ?」
 遼は頷いた。
「でも箱に入った9個のうち、最初の2個は泣きながら食べました」
 遼は照れた様に笑った。そして利恵に目を向け直し、躊躇いがちに訊いた。
「沖田さんとの関係は、その後……」
 利恵は遠い目をして言った。
「秋月くんの言う通りね。私も沖田主任とは離れ難くなってしまってた。あの時はもう第三者の誰かが二人を強制的に引き離すしか、方法は残ってなかったのよね」
「第三者の誰か?」



 学期末三月。いろいろなことがあった一年の締めくくりの時期になり、二年生担当の職員の間には穏やかな充実感が広がっていた。
「なんか、やり切った感、ありません? 篠原先生」
 職員室の隣の席に座った数学教師田辺が言った。
「やり切ってどうするの? この子たちをあと一年、責任持って育て上げて卒業させなきゃ」
「先生、四月からもこの学年希望されたんですか?」
「当たり前でしょ」
「沖田主任含めてこのままのスタッフで持ち上がりたいですね」

 生徒に渡す最後の通知表のデータ算出も終わり、学期末のそわそわ感が学校を支配し始めた頃、教職員異動内示の日がやってきた。
 私は校長室に呼ばれ、あっさりと現任校留任と告げられた。この学校に赴任して一年目だから当然だった。私が校長室を出て職員室に戻り、午後からの授業の準備をし始めた時、田辺がいつになく深刻な顔で私に告げた。
「知ってましたか? 篠原先生」
「何を?」
「沖田主任、転勤だって」
「えっ?!」
 それを聞いた私の喉元に熱い固まりが上がってきた。
「教頭として、ですって」田辺は遠慮なくため息をついた。「確かに彼、もう六年もここにいるわけだけど……でもあと一年、僕らと一緒に三年生まで受け持ってから転勤して欲しかったですよね」
「そう……なの」
「二年生の終わりで生徒たちを投げ出すみたいで、沖田先生本人もいたたまれないでしょうね。まあ教頭になったのなら仕方ないことなのかも知れないけど……」

 その二日後、私と沖田は、町外れのホテルで最後の夜を過ごしていた。
「ショックです」
 私は言った。
「僕もだ」
「ずいぶん遠くの学校に行ってしまうのね……」
 私はベッドの縁に腰掛け、沖田の肩に頭を載せてため息をついた。
「教頭は全県下が異動範囲なんだ」
「西の端の県境にある学校なんでしょう?」
「ああ、小さな小学校だね。昨日電話してみたら、児童数が80人足らずなんだそうだよ」
「……教頭試験を受けられてたんですね。知らなかった」
 沖田は申し訳なさそうに言った。
「校長にずっと勧められてたしね」
「にしても、ちょっと思いがけないタイミング。私たちと一緒にあの子たちを三年生まで持って下さると思ってました」
「僕もそう思ってた。異動のヒアリングの時も、何度も校長に確認したんだけど……」
「校長先生は何て?」
「十中八九留任だろう、って仰ってた。だから僕も校長先生も蓋を開けてびっくりだよ」
「そう……」
 しばらく二人の間に沈黙の時が流れた。
「……また会えますか?」
 私は思い切って訊いた。
 沖田はひどく切ない顔をして首を振った。
「もう……」
「また会いたい……」
 私はこぼれた涙を乱暴に拭って、沖田を睨みつけた。
「ごめん。けじめをつけよう」
「けじめって何?」
 私は大声を出した。
「君も言っていたじゃないか。『本気にならない』って」
 私は唇を噛んで黙り込んだ。
「僕たち……僕と君の家族のためにも……」
 私の脳裏に夫剛と息子遙生の面影が浮かんだ。
「天の計らい……だと思って」


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