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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第2章 その秘密の出来事は』-2

 教育実習が始まった週の金曜日、遼がふと道場の窓から外を見ると、利恵が校庭の木の陰に佇んでいた。耳にケータイを当てて誰かと話しているようだった。その表情はいつになく暗い感じで、時折頷きながら彼女はその口元に手をやった。
「(利恵先生何してるんだろう……)」
 部活が終わって、思い切って実習生の控え室のドアをノックした遼は、中からどうぞ、という声がしたので恐る恐るドアを開けた。利恵は中で現代社会の教科書と大きなノートを広げていた。
「先生……」
「あ、秋月くん。どうしたの? 何か用?」
「い、いえ、別に」
 遼は道場から見た寂しげな様子だった利恵にその訳を聞くつもりだったが、いざとなると何も言えずにドアの前で立ちすくんでいた。
「どうしたの?」
 遼の目は自然と利恵の首元に光るネックレスに向いていた。鼓動が訳もなく速くなってきたのに狼狽し、遼は結局自分が何も口に出せずにいることにいたたまれなくなって、くるりと利恵に背中を向けた。
「ごめんなさい」
 遼はドアを閉め、生徒昇降口の方に焦ったように歩き出した。数歩歩いた所で背後のドアが開く音がして遼は思わず立ち止まり、振り向いた。
 利恵が小走りで駆けてきて無言のまま遼に小さなメモを渡した。

 住所が書かれている。
 土曜日の部活の後、家を訪ねてくれと書いてある。

 遼の顔がかっと熱くなり、自らの心臓の音が耳元で聞こえ始めた。



 明くる土曜日の部活が13時頃に終わり、遼はメモの住所を頼りに利恵の家に向かった。
 そこはお世辞にも新しいとは言えないアパートだった。遼は二階に伸びる螺旋階段を上がり、三つある部屋の一番奥のドアの前に立った。
 ごくりと唾を飲み込んで、大きな白いエナメルバッグを肩に担ぎ直すと、遼は意を決して呼び鈴を押した。
 すぐにドアが開き、利恵が顔を覗かせた。
「いらっしゃい、秋月くん。上がって」
「お、お邪魔します……」
 部屋に足を踏み入れた時、あのすがすがしい香りが遼の鼻をくすぐった。

 六畳ほどの部屋の真ん中に白い小さなテーブルがあった。
「約束通り来てくれたのね。お昼、まだなんでしょ?」利恵が訊いた。
「は、はい」遼はかしこまって正座をしたまま答えた。
「じゃあ作ってあげるから、その間に汗流してきたら?」
「え?」
「部活帰りの男子高校生は世界で三番目に臭い、って言うでしょ?」
「そ、そうなんですか?」
 遼は顔を上げて申し訳なさそうな目をした。
 利恵はあはは、と笑った。「冗談よ。君自身が気持ち悪いでしょ? そのままじゃ」

 遼は利恵にフェイスタオルとバスタオルを渡され、玄関の横にある狭いバスルームに入った。

「か、辛い……」
 遼は舌を出して右手で扇いだ。そしてグラスに入ったコーラをごくごくと飲んだ。
「そんなに辛かった?」
 向かいに座ってフォークに巻かれたパスタを持ち上げたまま、利恵は申し訳なさそうに言った。
「唐辛子が舌に張り付いちゃって……」
「あらあら」
 利恵は笑った。
「でも、美味しいです。これ何ていうスパゲティですか?」
「ペペロンチーノ。私の大好物なの。週に一回は食べないと気が済まない」
「へえ」
「秋月くんは食べたことないの? このパスタ」
「たぶん……」
「ニンニクとローズマリー入りオリーブオイルとトウガラシ。味付けは塩こしょう。このシンプルさが素敵だと思わない?」
「初めて食べる料理だ……」
「お気に召した?」
「すごく美味しいです。病みつきになりそう」
「そう、良かった」
 利恵は上機嫌でその艶やかなパスタ麺を口に運んだ。


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