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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第1章 その警察官、秋月 遼』-1

第一章《その警察官、秋月遼》

1−1

 鈴掛南中学校の剣道部には28人の部員がいた。警察官秋月遼(あきづき りょう 30)は毎週月、水曜日の夕方、学校を訪れ、ゲストコーチとしてその生徒たちの指導に当たっていた。
 遼はすずかけ町二丁目の交番に勤める警部補で交番の責任者だった。巡査時代からその真面目で誠実な働きぶりと勤勉さが上層部に評価されていて、この四月には巡査部長から昇級して弱冠30歳という若さで警部補に任ぜられていた。彼は中学に入ってから始めた剣道を今も続け、今は三段の腕前だった。彼には高校三年生時代からつき合い始めた亜紀という同い年の妻がいる。

「遙生、足の具合は?」
 その日の夕方、中学校の部活の時間に剣道道場を訪れた遼は、隅で頭に手ぬぐいを巻き、面を付けようとしていた小柄な二年生の男子生徒に声を掛けた。その生徒は顔を上げ、にっこりと笑った。
「あ、秋月コーチ」
「先週の足首の捻挫、どんな具合だ?」
「まだ少し痛みが出ることもありますけど、大丈夫です」
 包帯の巻かれた右足首をさすりながら、その生徒篠原遙生(しのはら はるき)は言った。
「無理するなよ。しばらくは乱稽古は控えた方がいい」
「はい、そうします。今週はリハビリですね」
 遙生は少し照れたようにまたにっこりと笑い、面をかぶった。遼は彼の後ろにまわり、面紐を左右にひっぱり、きゅっと結んでやった。
「秋月コーチと遙生はまるで親子のようだな」
 遼の後ろで声がした。笑いながら立っていたのはこのこの学校の剣道部の顧問、保健体育科の教師剣持優(けんもち すぐる)(37)だった。
「剣持先生」
 遼は目を上げた。
「目元もよく似ているし」
「人からよくそう言わます。他人のそら似ってやつですね」遼は立ち上がって頭を掻いた。
 小手を付け終わった遙生は竹刀を持って立ち、遼と剣持に軽く会釈をして、他の部員たちが素振りをしている場所に小走りで駆けていった。
 その後ろ姿を微笑ましく見やりながら、剣持は言った。
「遙生のやつ、君のことが大好きなんだよ。君がやってくる月曜日と水曜日は目に見えて動きが違うんだ」
「そうなんですか?」
「先週、あいつが捻挫した時、君がおぶって保健室に連れて行ってくれただろう? その時も養護の先生に言ってたそうだよ。秋月コーチが毎日来てくれたらいいのに、ってな」
 遼ははにかんだ様子で頬を人差し指で掻いた。
「今訊いたら、遙生、まだ少し痛みが残ってると言ってました」
「うん。だろうな。様子を見てればわかる。無理はさせないよ。まあ、そうやって闇雲に行動する生徒じゃないから心配ないとは思うけどな」
「確かに」遼は道場の端で素振りを始めた遙生の背中に目をやった。「もうちょっと闘志が欲しい気もしないではないですが」
「そうだな。基本的に優しいからな、遙生は。だが俺自身はああいうタイプは悪くないと思ってる」
 遼はその筋肉質の顧問教師に目を向け直した。
「昂奮して我を忘れるような闘志むき出しの闘い方は、剣道という武道には似合わない。そう思うだろ? 秋月コーチも」
「はい。そうですね」
 遼は自分が中学生の時に、当時の剣道部の顧問から言われたことを思い出していた。
『剣道は戦意や闘志だけがあればいいというものじゃない。まず相手に敬意を払いその人格を尊重し、平常心を忘れずに相対することだ。おまえにはそれが身についているようだ。きっと誰よりも早く上達するよ』


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