『第1章 その警察官、秋月 遼』-6
「も、もうイく……かも」遼は独り言のように言って歯を食いしばった。
亜紀が秘部に感じる違和感はビリビリとした痛みに変わっていった。今まで感じたことのない、小さな無数の傷が刺激されるような痛みだった。亜紀は思わず顎を上げ、その身体をずり上げていった。亜紀の頭に押されて枕がベッドの下に落ちた時、その硬くて熱を持ったものがぐいっと谷間に押し入り、ひときわ激しい痛みを感じて亜紀は悲鳴を上げた。
遼は亜紀の身体の両脇に両手を突き、小さく腰を動かし始めた。
得体の知れない異物が自分の身体の一番敏感になっている場所に出入りしている。亜紀の腰は痺れ、いつしか痛みすら感じられなくなっていた。亜紀はひたすらその時間が早く過ぎ去って欲しいと願っていた。
それから程なくして、遼の腰の動きがにわかに速くなり、その顎から亜紀の首筋にぽたぽたと汗が落ちた瞬間、遼の動きが止まり、その喉元でぐう、という音がした。
遼は顔を紅潮させ、身体を激しく脈動させていた。
いつしか亜紀の目から涙が溢れ、こめかみを伝っていた。
遼はすぐに亜紀から身を離した。そして寄り添って横になり、その身体を優しく抱いた。
「ごめん、痛かった?」
亜紀は泣きながら無言で何度も頷いた。
遼はひどく申し訳なさそうな顔で、掛ける言葉を見つけることもできず亜紀の髪をぎこちない手つきで何度も撫でた。
▽
「遼ってさ、」
亜紀は遼に身体を向けた。
両腕を後ろに組んで枕にしていた遼は目だけを亜紀に向けた。
「ん?」
「あんまりがっついてなかったよね」
「そう?」
「高校生の男子って、彼女とデートする度エッチしたいって思うもんじゃないの?」
「そ、そうなのかな……」
「あれから高校を卒業するまで、何度もデートしたけど、抱き合ったのは数える程度だったよね」
「高校生だったらそんなもんじゃない? 大人の目を盗んでやる行為だし」
「チャンスはいくらでもあったでしょ? あたしの部屋で二人きりになったりしたことも何度かあったし」
遼はばつが悪そうに鼻の頭を人差し指で掻いた。
「あたしの身体、魅力なかった?」
「そんなことない」遼はかぶりを振った。「すごく、なんかこう、気持ちいいって言うか……」
「そうなの? だって卒業するまで、あたし遼とそんなことする度痛がってたでしょ? 男の貴男にとっては不満だったんじゃない?」
「男の僕にとって性的な快感は射精すれば味わえるから、その心配はないけどね。それよりも上り詰めた後の心理的な心地よさはいつもあったね」
「心理的?」
「うん。大好きな彼女と裸でくっついていられる、っていう満足感。物理的な距離感と心理的な距離感が合わさった幸福感だね」
「なに難しいこと言ってるんだか」
亜紀は笑った。
「でも、君はずっと痛い思いをしてたんだろ? 嫌にならなかった?」
「あたしも心理的な気持ち良さの方が強かった気がする。身体の性的な満足感が得られるようになったのは高校を卒業してからかな。少しずつね」
「そうか……」
「短大生になったっていう開放感もあったかも」
「なるほどね。僕は当時も今も君を抱いている時が、なんて言うか一番安心できる時間なんだ」
「安心?」
「うん。行為の最中は、もうずっとすっごく気持ちいいし、盛り上がって弾ける時の幸福感も最高なんだけど、終わった後、君の身体を抱いているときには心から癒やされて落ち着けるんだ」
亜紀はふふっと笑った。「そうね。今でも時々繋がったままうとうとしてるもんね、遼」
「ごめん、嫌だった?」
「ううん。あたしも好き、そうやって遼があたしの中で満足そうにしてるのって」