本番-1
元お嬢様で現在は平凡な専業主婦である原谷由紀子。
彼女は今、夫の仕事上の大きなミスの穴埋めをするため、カメラで撮影されていると知りながら服を脱ぎ、自慰をしている。
夫の上司から初めてその依頼を受けた時は頭が真っ白になってしまって何も考えられなかった。自慰をしたことすらなかったし、それを他人に見せるなど、想像の域をはるかに超えていたのだから。
その後、親友の江理花の助けにより、なんとかパニックを起こさずに今日の本番を迎えられるところまでは漕ぎつけた。
しかし、だからと言って平気で他人に自慰を見せられるようになったわけではない。今までに自慰をしている所を見られた相手はたった一人。それも、気心の知れた親友で絶対的な信頼を寄せる江理花だけなのだ。
「はあ……」
ため息が止まらない。体の震えが止まらない。それは恥ずかしさ故、そして悲しさ故。
女が最も見られたくない行為である自慰を、何故他人に見せなければならないのか。なぜ自分はそれを拒否することが許されないのか。
夫の従属物になった覚えなどないが、夫婦として彼のピンチを救いたいという気持ちもまた本当だ。だから由紀子は脱ぎ、自分を弄り、それを見せる。
しかしそれとは別に、昨日江理花が別れ際に囁いた言葉が胸の中で黒い霧のように纏わりつき、彼女を落ち着かなくさせている。
『あなたなら大丈夫よ、由紀子。後は、自分の中に眠る怪物に気付きさえすれば。そして目覚めさせさえすれば。新しい世界が開けるから』
自宅リビングで、大型テレビにクリップで留めたカメラに向かい、ブラウスを脱ぎブラを外して、熟成されて甘い芳香を放つ白い乳房を揺らせた。
そして乳首を弄り、感じるままに熱い吐息を漏らし、更にはスカートをすらも脱ぎ捨てた。
由紀子の右手が白い腹を這い下り始めた。彼女の体を隠す為に残された、ただ一枚きりの布であるパンティに向かって。
「ああ、私はなぜこんなことをしているの? なぜしなければならないの?」
その答などとうに彼女は知っている。それでも問わずにはいられないのだ。そうでもしなければ、とても耐えられないほどの恥辱の中に、由紀子は居た。
カメラで撮影されていると知っているのに自慰をし、しかもその刺激に対して体は正直に反応してしまっているのだから。
「ああ、どうしてこんなことに……」
幾度も幾度も繰り返してきたその問いに意味などない。するしかないのだから。今は。
指先がパンティに触れた。ブラとお揃いの、淡い刺繍の入った上品なベージュの下着だ。その中央部分は既に多分の湿り気を帯びてシミを広げている。
そのシミに向かって指は下りていく。
そこに触れる寸前に、指は急停止した。テレビ画面をチラリと見る。そこにはカメラがとらえた映像がリアルタイムに映し出されている。それは彼女の記憶には全くない男に見せる為に録画されている。
ギュっと唇が結ばれた。それは微かに震えている。それでも由紀子は意を決するように、ふう、と息をつき、指先をパンティのシミに触れさせた。
「ん……」
思わず声が漏れたが、指の動きは止まらない。股間の奥へ、手前へと往復を始めた。
「う、くっ……」
膝がガク、ガクンと折れそうになる。
立っていることに限界を感じたのか、由紀子は一歩後ろへ下がって一人掛け用の肘掛け付きソファに深く座った。そして両足を座面に乗せた。
テレビ画面には、ソファの上で足をM字型に開いた女が映っている。その女はキッとこちらを睨みつけながら自分のパンティに手を掛け、躊躇いながら迷いながら惑いながら、思い切ったようにそれを一気にスルリと捲り下ろした。
むっちりと肉感的な太腿を通り、小さな膝を通過し、スラリと長い脛を過ぎて細い足首から抜き取られたパンティは、何かを吹っ切るかのように投げ捨てられた。
そして、再び足は大きく広げられた。
思いのほかよく茂った小高い丘。その中央に縦に走る秘肉の溝。そこには出来立ての真珠の様に瑞々しく光を反射する肉の蕾がぷっくりと顔を覗かせている。
微細な皺の寄った柔肉の花びらが、何かを誘い込もうとしているかのように僅かに口を開いている。その内側の桜色の側壁や谷底は、白濁した粘り気の強い液体に覆いつくされて、天井のシャンデリアの光を複雑にヌラヌラと散らせている。
そこは、まるでそれ自体が一つの軟体生物であるかの如くウネウネと蠢いている。
中指の先端が肉の蕾に迫った。一瞬の躊躇の後、チョン、と触れた。
「んん……」
たったそれだけで、由紀子の腰がビクンと跳ねた。かなりの感度だ。
もう一度。今度は耐えた。
指が下の方、つまり股間の奥の方へと降りていき、どうしようもない程に溢れ出している粘液を掬い上げた。その指からは微かに湯気が立ち上っている。興奮で熱を帯びた秘肉の谷間で温められた粘液が蒸発しているのだ。由紀子は自分の発する女の匂いを感じ、狼狽えた。他人に見せるために自慰をするなどといったこんなバカげた行為はしたくないのに、身体は与えられた刺激に対して反応してしまっているのだ。
いや、反応しているのは刺激に対してだけではないという事に、由紀子は本当は気付いていた。しかしそれを認めてしまったら……彼女は自分が倒錯した性癖を持っていることを受け入れるしかなくなってしまう。
そう。由紀子は、見られながら自慰をすることに、通常ならざる興奮を覚えてしまっているのだ。そのことが更なる恥辱を彼女に与え、それがまた興奮を呼び。
倒錯のループは延々と繰り返され、由紀子はもう下腹部の奥深くに響いている疼きに抗いきれなくなっている。